碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第一章

昇格

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   「……どっちも立ってる……?」

 信じられるだろうか。あの光の奔流を受けてすら、倒れてないのか。

 「正気じゃない…」

  「?」

  何もかもを知っている上で、驚いている口調だった。戦神ガランドが、立っている理由を知っているようだった。

 「あの瞬間、あなたはエルトからの電撃を受けつつ、レイピアを地面へ刺した………そう、

 「アース?」

 「漏電などを防ぐために、大地へ回路を繋ぐことです」

 別名接地。洗濯機などは水を扱うので、漏電の危険性がある。そのためアースがあると、電気が電気抵抗のある地面へと流れ、感電を防げる。

  「そんなの、むちゃくちゃじゃないですか。だって、電気がガランドさんに流れてることに、変わりはないのですから」

 



「そこは、意志力の問題ですね」

 と、先程まで口を閉ざしていた本人が語り出した。いつしか、戦闘モードの口調も解除されている。

 服は、持ち主のようにはいかなかったのだろう。あちこちが焦げ付き、破れ、気品さなどは霧散していた。

  「確かに、意識が飛びそうにはなりましたよ。さすが、ルク様。考えることがいやはや恐ろしい」

 「光栄です」

 (それを意志とかなんだかで、耐え切った貴方の方が怖いですよ!)

 つくづくそう思う。

 「それより、ルク様もクリネ様も素晴らしい活躍でしたね。まぁ、ですがね」

 「「……」」

 これには、一同黙る他なかった。



 __________________________________



ゴタゴタしたが、依頼は達成した。後は、このままあの壮年ギルマスの元へ、報告にいけば良い。

 戦闘によりボロボロの状態だったが、いち早く依頼達成をしたいがために、直ぐに出発することにした。

ギルドへの道中にて。相も変わらず、豪邸ばかりが立ち並ぶ通りを、二人は歩いていた。

 「えへへーこれでようやくなれますね!上級ハンター!」

 「………えっと大変言いずらいのですが、僕はもう上級ハンターなんですよ」

  「あ、そういえば。……ん?じゃあ、今回の依頼ってまさか…」

 真相を理解したクリネはガクガクし始める。

 「そうですね。昇格試験ですね」

 「うわぁ~!わ、私なんにもやってないマジでなんにもやってない!」

 「そんなことはありませんよ。クリネさんのおかげで色々助かってるんです」

 急に、語気が強くなるルク。なんか似たようなことをガランド戦の時も言っていたような、とクリネは思う。
 
 「クリネさんがいなかったら、そもそもベセノムの存在を知りませんでしたよ」

 「そ、そうですか?……って!それ試験に関係ないじゃないですか!」

  危うく、騙されるところだった。ルクをベセノムに連れていき、ハンターについてあれこれ教えたのは間違いない。

 「戦闘じゃ頼りっぱなしでしたよ。おかげで、あの人も結構酷いこと言われたし……」

 彼女は、先程の戦いを反芻していた。ガランドが言うには、クリネの太刀筋は愚か魔導も使えないと判断されてしまった。

 (魔導の方は、かなりの自信あったのにな…)

 「何言ってるんですか、クリネさん」

 「?」
 
 ルクは、どうやら少し怒っているようだ。何故彼は怒っているのだろう。別に、事実を言っただけなのに。

 「あの人、ああ見えてクリネさんのこと褒めてたんですよ?」

 今度はこちらが何を言ってるのか、と言いたくなった。だってあんなにガランドは馬鹿にしていたじゃないか。戦場じゃ使えないって。

 「戦神が語り掛けるのは、ある程度実力を持った者だけと言われています。それに見合わない弱者は、見向きもせず切り捨てられると」

 「__」

 「言い方には棘がありますけど、きっとあの人なりに鼓舞したのでしょう。もっと強くならないと死ぬぞって」

 「っ!」

 

 ___駄目ですよ。敵の前で一度出した技をまた出すなど。さらに、この魔導は練度が低すぎます。大戦の魔導鎧だとしたら、傷一つつかない。


 ___

 改めて思い出してみると、キツイ言葉の中にも確かに優しさがあった。

 「ま、まぁ僕もあの時は、感情的になってしまったんですけどね。後から考え直したんですよ」

 「そうだったんですか…」

 あの時は、正直とても嬉しかった。出会ってから数日しか経っていないのに、ルクは自分のことを少なからず思ってくれていたんだ。

  ___黙れッッ!!クリネさんを罵った罪をここで償わせてやる!

  ___それが、あなたのせいだとしても?
 
  ___分かってる!自分が未熟だから、自分が弱いから!こんなことになってしまった。だから!だからこそ、ここで負けていい理由にはならないんだ!
 
 しかも、それを自分で全て背負って。勝てないと思い込んでいた敵に、一人で向かっていった。

 ___……弱くてもいいんですか?……先輩面していいんですか?

 ___そんなの訊かないでくださいよ。当たり前です。

 「まさか泣かしてしまうとは思わなかったですけど」

 「うう…」

 あの時は、泣いて泣いてスッキリした。でも、今思い出すと敵の前でおめおめと泣き、味方を混乱させているやつだ。恥ずかしいを超えて、愚かしいにもほどがある。

 「だけど、こんなに僕のために泣いてくれるのは、師匠ぐらいでした。ずっと、遠い地で過ごしていたので人との関わりが、無かったんですよ」

 そう、少し弱気に語るルク。今まで見せたことの無い、弱さが隠しきれていない表情だった。そんな顔を見せるほど、信用されているということなのかもしれないが。

 「ルクさん」

 「はい?」

 「また今度、故郷のことをお話してくれませんか?私何にも知らなくて」

 「そうですね…クリネさんになら話してもいいかな。故郷アルカナのことを」

 「ホントですか!やった!」

 無邪気な子どものように喜ぶクリネ。彼との距離が、近づいたのが改めて嬉しかった。




 __________________________________



 二人は、スサム区中枢にあるハンターズギルドへ戻ってきた。

 「おおっ!キタキタ!待っていましたよぉ、二人とも!」

 「…ギルマス自らお出迎えなんて」

 中に入った途端だった。目の前に急に大きな壁が現れ何事かと思ったら、そこに居たのはスサム区狩猟組合長ギルドマスター、アルフレッド=ロクラタイナだった。

 「当たり前ですよ。期待の新人ルーキーが、上級ハンターになったんですから!」

 「おお!こいつらが噂のやつか」

 「なかなか、いい面してんじゃん」

 「こりゃ、大成するな?」

 「酒が進むぜぇ!!」

 ギルド内にいた他のハンターも、二人のことを祝福していた。

 「ささっ、完了手続は応接間で行いますよ」

 二人は、大きな喧噪の中を通りながら、奥にある応接間へと向かった。

 
 
 ドアを閉めると、急に静かになる。ドアを閉めると消音魔導サイレントでも発動する仕掛けなのだろうか。

 「よく頑張ったな」

 まず、初めに厳しい口から飛び出したのは、労いの言葉だった。やはり、こちらが素の方らしい。この応接間を去る時に、見せたあの表情をしていた。

 「ぎ、ギルドマスターってそんな顔もされるんですね」

 クリネは、見るのは初めてだったか。驚くのも無理はない。彼は今まで何に対しても、敬語で接していた。

 「いやな、あのエルフうるさいやつに言われた迄よ。あまり、威圧感を与えないようになと」

 「エルフってあのもしかして副長サブマスターのことですか?」

「そうだ」

 すると、

 「お呼びですか?」

 「うおっ!」

 ぬっと、一人の女性が出てくる。しかも、扉を一切使わずにだ。

 長く尖ったエルフ特有の耳に、美しいブロンドの髪、翡翠色の目。どこをとっても正真正銘のエルフだった。

 「この部屋に、私のことを悪く言った痴れ者バカヤロウがいるみたいなのですよ、ね?ギルドマスター?」

 「ひぃぃ!」

 ギルドマスターは歴戦の猛者と聞くが、その人すら恐怖させるとは一体何者なのだろうか。

 「あらあら、私としたことが忘れていましたわ。お初にお目にかかります。スサム区ギルド副長サブマスター、ナシエノ=リートと申します。以後お見知りおきを」

 「「はい!」」

 思わず二人とも元気のいい返事を返す。何故だか、反論していてはいけない気がした。

 「クリネさんは、今回上級ハンターの昇格おめでとうございます」

 「あ、はい!」

 「こちらをお受け取り下さい」

 どこからともなく、カード状のものを取り出すナシエノ。

 「これは?」

 「上級ハンターの証明書です」

 「ふぇっ!」

 変な声が出てしまった。待ちに待った上級ハンターの存在が、突然現実になった気がした。
 
 手渡されたのは、身分証明書のようなものだった。顔写真や、生年月日などの個人情報がズラリと乗っていた。相違点は、<この者を上級ハンターとして承認する。             総長グランドマスタールベルト=ベルセム>の一文だろう。

 「ありがとございます!」

 「いえいえ、貴女の成果ですよ」

 ナシエノは、ギルマスを踏みつけながら、にこやかに答える。

 「ぐおっ、本当におめでとう、ぐはっ」

 アルフレッドも、折檻に耐えながら言葉を絞り出す。

 「おめでとうございます。ようやく夢が叶いましたね」

  ルクも、クリネの門出を喜んでくれているようだ。

 「はい!これで一緒にクエスト行けますね!」

 全力の笑みを浮かべるクリネ。今までの引き攣ったような笑顔ではなく、心の底からの喜びを顕にしていた。

 「は、はい!」

 少しその表情に見蕩れていたルクは、返答に遅れる。

 「なんか顔が赤いですよ?」

 「そ、そうですか?」

 クリネは、ルクが珍しくキョドっているが、首を傾げる。

 「ほぉー青春してるなぁ、若い頃は私m、ぐほおおぉっ!」

 「えっ、ええっ!?」

 「余計なこと言わないでくださいね、ギルマスジジィ?」

 「す、すみません許してくだしゃい」

 あの威厳は、どこに行ったのだろうか。まるで、母親に怒られている小さな子どもだ。

 

 ___兎にも角にも、無事晴れてクリネは上級ハンターとなった。新たなる冒険が始まろうとしていた。
 
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