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第二章
洗礼
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「ほう、それは俺を馬鹿にしているのか?………いい度胸だな」
より一層男の圧が増す。それに伴って、周りの空気も重くなっていく。常人ならば、その凄まじさに息も出来なくなるだろう。
「いえ、そんなつもりは全く。ただ、これから仕事をこなす上で同僚、と言うと烏滸がましいですが、先輩ぐらいの関係は築きたいのですよ」
しかし、ルクは全く動じることなく接した。むしろ、これぐらいの揉め事はあって当然ぐらいに思っているようだった。
「貴様のような底辺の野郎と、馴れ合う気はねぇよ」
「ちょ、ちょっと言い過ぎです!」
クリネが思わず、声を出す。ルクに対しての罵倒が、気に入らなかったのだろう。
「クリネか……この坊主とは、仲良くやってるみたいだが、こんな奴と一緒にいたらお前まで腐るぞ?」
矛先は、クリネに向いた。クリネは、明らかにしまったという顔をする。
くすみ金髪は、一度ルクの顔を見てニヤリとする。そして呆然としているクリネに対し、こう言い放つ。
「お前は元からカスなんだから、こんなのと付き合ってる暇はないんじゃないのか、ああ?」
ブチッ。
ルクは、自分の頭の中で何かが切れる音がしたように感じた。
「ちょっと、今のは聞き捨てなりませんね」
「はあっ?誰に向かって口聞いてると思ってんだ?」
「だからそれが分からないから、教えてくれって言ってるんですけどね?」
空気は悪くなるばかりだ。いつもは、ハンター達の声が喧しいギルド内も、今は静寂に包まれている。
とうとう、イチャモン金髪は決定的な一言を口にする。
「いいだろう、決闘だ」
野次馬から、息を呑む声が聞こえる。それにつられて、周囲はザワザワとし始める。
「因みに俺に決闘を申し込まれた奴は、最低でも全治二週間は固いぞ?」
「脅しのつもりなら、全く意味ありせんよ」
金髪の渾身の脅しにも、ルクは何処吹く風といった感じだ。
決闘。それはギルド内で1体1、もしくは複数対複数の闘争が発生した際に執り行われる正式な試合。
まず第一に、相手と味方の数は一緒でなければならない。つまり、1体複数は不可能ということだ。あくまで公式の、という条件が付くが。
そして、殺しは厳禁だ。どんな理由があろうと、お互いがハンターであることに変わりはなく、制裁を加えられるのはギルドのみという考えが根底にある。
万が一、殺害が確認されたならば、即刻厳重な処罰が下る。噂によると、死刑ではなく、死より恐ろしい拷問が永遠と続くらしい。
「じゃあ、本当に決闘するでいいんだな?後悔するぞ?」
「ご自身の心配をした方がよろしいかと」
ここぞとばかりに、どこかの老人に言われたことを真似してみた。効果は覿面。彼は、額に青筋を浮かべ今にも爆発寸前だった。
「おい!ラムレットの嬢ちゃん!決闘の準備を頼む!」
「はいはーい。ちょっと待っててくださいね~。今から闘技場開けてきますのでー」
意外だと思った。
このタイプの輩は、カッとなるとすぐに殴りかかってくると思ったからだ。もしそうしてくれれば、こちらも正当防衛を理由に気兼ねなく反撃できる。その分、事態の収束は早まるだろうと考えていた。
やがて、闘技場とやらの準備が出来たことが告げられる。
それは、ギルド奥の少し古めかしい扉の奥にあった。剥き出しの地面や、石を加工して作られた円形の観客席、焔魔導を直に利用した照明など、年季の入ったものばかりだった。
野次馬はそのまま観客となり、ルク達を囲うようにして、事態の行く末を見守っている。その中には、心配そうな顔をしているクリネの姿も見受けられた。
(クリネさんのこととなると、沸点が下がってしまうんですよね……どうにかして直さないとな……)
ラムレットが、開催の合図を観客席に設置された少し高い台の上から、告げる。
(ルクさん!頑張ってください!これは、恒例の洗礼ですので!)
「では、今からスサム区ギルド受付嬢。ラムレット=タックの名において決闘を始めます。ルク=シュゼンベルク対エイコス=レリック。時間無制限。殺し厳禁。両者ようい、始め!」
戦いは始まった。
先に仕掛けたのは、エイコスの方だった。腰に忍ばせたナイフで、接近戦を試みる。
「フッ、ハアッ、ていやァ!」
逆手に持ったナイフが煌めく。その無駄のない動きは、たかが数日で身につくものでは無いことは、理解に難くなかった。
と、野次馬から気になる発言が聞こえてくる。
「流石、初心者殺し!やっぱり、そこらのやつとは動きから違ぇぜ!」
(初心者殺し、ですか。こんなことをしてるのは、僕だけじゃないようですね)
「余所見してんじゃねぇっ!」
「おっと、すみません。あまりにあなたの動きが遅いもので、考え事をしてしまいました」
戦闘中にも、煽ることを忘れない。先程は読みを外したが、このタイプが煽りに弱いのには、変わりない。
「ふんっ!」
案の定、動きが荒くなる。最初の動きですら簡単に避けれたルクにとっては、もう目を瞑っても避けられる。
「くそっ、くそっ!どうして、当たらねぇんだよ!」
「そんなに、焦っていてはますます当たりませんよ?」
言葉を重ねるほど、彼の動きは悪くなる。金髪エイコスは格闘だけでなく、心理戦にすら負けていた。
加えて、
「………はぁ…ふぅ、はぁはぁ……」
「もうバテたのですか?では、ここで終わらせてあげるのが、お互いのためですね」
「何をっ!」
最終的には、ナイフを闇雲に振り回しているだけとなってしまった。見るに堪えない姿を目の当たりにしたルクは、覚悟を決める。
_____一撃で仕留める。それも、殺さないで。
その攻撃には、掛け声すら無かった。
半身になることでナイフを避けていたルクは、急に挙動を変える。突き刺そうとする右手を掴み、ナイフを素早く奪い取る。
「なにっ!?」
あとは、背負い投げの要領で背後に投げる。しかも、それをナイフを掴んでいない左手だけで成し遂げる。異常な筋力だ。
「うおっ!」
地面に勢いよく叩きつけられるエイコス。悲鳴をあげようとする前に、相手の方に動きがあった。
ルクは反転しながら、エイコスの大きな体に飛び乗る。
「ぐっ、な、んだ、こいつ……ぐはぁ、重す、ぎる……ぞ……」
「身体改造加重」
加重は、身体の筋肉を増加させることで、自身の体重を増やすものだ。だが、単に筋肉を増加させるといっても簡単なことではない。
一度、筋肉を構成する筋繊維を破壊し、その後に発生する『超回復』により筋肉が生成される。筋肉生成プロセスには、地道なトレーニングを毎日続けることが欠かせない。
「だけど、僕の場合はそのプロセスを極限まで短縮できるんですよ。さらに、その筋肉の密度や生成量だって思うがままです。そのため、今の僕の体重は二倍の110kgです」
「は、はあぁ!?」
「とにかく、これでおしまいです」
ビュオオッ!!!!
上から勢いよく、ナイフを振り下ろす。そのナイフは、初心者殺しに近づいていく。ルクの顔は、あたかも罪人を裁く処刑人のように冷えきってきた。
鋭く研がれたナイフが刺さる。だが、鮮血も周囲からの悲鳴も出なかった。
「え、え?た、助かった、、、のか?」
相手は、その状況を理解出来ていなかった。
「はい、勿論殺しは禁止なのでね?」
その時のルクは、先程の表情とは打って変わって、満面の笑みだった。
より一層男の圧が増す。それに伴って、周りの空気も重くなっていく。常人ならば、その凄まじさに息も出来なくなるだろう。
「いえ、そんなつもりは全く。ただ、これから仕事をこなす上で同僚、と言うと烏滸がましいですが、先輩ぐらいの関係は築きたいのですよ」
しかし、ルクは全く動じることなく接した。むしろ、これぐらいの揉め事はあって当然ぐらいに思っているようだった。
「貴様のような底辺の野郎と、馴れ合う気はねぇよ」
「ちょ、ちょっと言い過ぎです!」
クリネが思わず、声を出す。ルクに対しての罵倒が、気に入らなかったのだろう。
「クリネか……この坊主とは、仲良くやってるみたいだが、こんな奴と一緒にいたらお前まで腐るぞ?」
矛先は、クリネに向いた。クリネは、明らかにしまったという顔をする。
くすみ金髪は、一度ルクの顔を見てニヤリとする。そして呆然としているクリネに対し、こう言い放つ。
「お前は元からカスなんだから、こんなのと付き合ってる暇はないんじゃないのか、ああ?」
ブチッ。
ルクは、自分の頭の中で何かが切れる音がしたように感じた。
「ちょっと、今のは聞き捨てなりませんね」
「はあっ?誰に向かって口聞いてると思ってんだ?」
「だからそれが分からないから、教えてくれって言ってるんですけどね?」
空気は悪くなるばかりだ。いつもは、ハンター達の声が喧しいギルド内も、今は静寂に包まれている。
とうとう、イチャモン金髪は決定的な一言を口にする。
「いいだろう、決闘だ」
野次馬から、息を呑む声が聞こえる。それにつられて、周囲はザワザワとし始める。
「因みに俺に決闘を申し込まれた奴は、最低でも全治二週間は固いぞ?」
「脅しのつもりなら、全く意味ありせんよ」
金髪の渾身の脅しにも、ルクは何処吹く風といった感じだ。
決闘。それはギルド内で1体1、もしくは複数対複数の闘争が発生した際に執り行われる正式な試合。
まず第一に、相手と味方の数は一緒でなければならない。つまり、1体複数は不可能ということだ。あくまで公式の、という条件が付くが。
そして、殺しは厳禁だ。どんな理由があろうと、お互いがハンターであることに変わりはなく、制裁を加えられるのはギルドのみという考えが根底にある。
万が一、殺害が確認されたならば、即刻厳重な処罰が下る。噂によると、死刑ではなく、死より恐ろしい拷問が永遠と続くらしい。
「じゃあ、本当に決闘するでいいんだな?後悔するぞ?」
「ご自身の心配をした方がよろしいかと」
ここぞとばかりに、どこかの老人に言われたことを真似してみた。効果は覿面。彼は、額に青筋を浮かべ今にも爆発寸前だった。
「おい!ラムレットの嬢ちゃん!決闘の準備を頼む!」
「はいはーい。ちょっと待っててくださいね~。今から闘技場開けてきますのでー」
意外だと思った。
このタイプの輩は、カッとなるとすぐに殴りかかってくると思ったからだ。もしそうしてくれれば、こちらも正当防衛を理由に気兼ねなく反撃できる。その分、事態の収束は早まるだろうと考えていた。
やがて、闘技場とやらの準備が出来たことが告げられる。
それは、ギルド奥の少し古めかしい扉の奥にあった。剥き出しの地面や、石を加工して作られた円形の観客席、焔魔導を直に利用した照明など、年季の入ったものばかりだった。
野次馬はそのまま観客となり、ルク達を囲うようにして、事態の行く末を見守っている。その中には、心配そうな顔をしているクリネの姿も見受けられた。
(クリネさんのこととなると、沸点が下がってしまうんですよね……どうにかして直さないとな……)
ラムレットが、開催の合図を観客席に設置された少し高い台の上から、告げる。
(ルクさん!頑張ってください!これは、恒例の洗礼ですので!)
「では、今からスサム区ギルド受付嬢。ラムレット=タックの名において決闘を始めます。ルク=シュゼンベルク対エイコス=レリック。時間無制限。殺し厳禁。両者ようい、始め!」
戦いは始まった。
先に仕掛けたのは、エイコスの方だった。腰に忍ばせたナイフで、接近戦を試みる。
「フッ、ハアッ、ていやァ!」
逆手に持ったナイフが煌めく。その無駄のない動きは、たかが数日で身につくものでは無いことは、理解に難くなかった。
と、野次馬から気になる発言が聞こえてくる。
「流石、初心者殺し!やっぱり、そこらのやつとは動きから違ぇぜ!」
(初心者殺し、ですか。こんなことをしてるのは、僕だけじゃないようですね)
「余所見してんじゃねぇっ!」
「おっと、すみません。あまりにあなたの動きが遅いもので、考え事をしてしまいました」
戦闘中にも、煽ることを忘れない。先程は読みを外したが、このタイプが煽りに弱いのには、変わりない。
「ふんっ!」
案の定、動きが荒くなる。最初の動きですら簡単に避けれたルクにとっては、もう目を瞑っても避けられる。
「くそっ、くそっ!どうして、当たらねぇんだよ!」
「そんなに、焦っていてはますます当たりませんよ?」
言葉を重ねるほど、彼の動きは悪くなる。金髪エイコスは格闘だけでなく、心理戦にすら負けていた。
加えて、
「………はぁ…ふぅ、はぁはぁ……」
「もうバテたのですか?では、ここで終わらせてあげるのが、お互いのためですね」
「何をっ!」
最終的には、ナイフを闇雲に振り回しているだけとなってしまった。見るに堪えない姿を目の当たりにしたルクは、覚悟を決める。
_____一撃で仕留める。それも、殺さないで。
その攻撃には、掛け声すら無かった。
半身になることでナイフを避けていたルクは、急に挙動を変える。突き刺そうとする右手を掴み、ナイフを素早く奪い取る。
「なにっ!?」
あとは、背負い投げの要領で背後に投げる。しかも、それをナイフを掴んでいない左手だけで成し遂げる。異常な筋力だ。
「うおっ!」
地面に勢いよく叩きつけられるエイコス。悲鳴をあげようとする前に、相手の方に動きがあった。
ルクは反転しながら、エイコスの大きな体に飛び乗る。
「ぐっ、な、んだ、こいつ……ぐはぁ、重す、ぎる……ぞ……」
「身体改造加重」
加重は、身体の筋肉を増加させることで、自身の体重を増やすものだ。だが、単に筋肉を増加させるといっても簡単なことではない。
一度、筋肉を構成する筋繊維を破壊し、その後に発生する『超回復』により筋肉が生成される。筋肉生成プロセスには、地道なトレーニングを毎日続けることが欠かせない。
「だけど、僕の場合はそのプロセスを極限まで短縮できるんですよ。さらに、その筋肉の密度や生成量だって思うがままです。そのため、今の僕の体重は二倍の110kgです」
「は、はあぁ!?」
「とにかく、これでおしまいです」
ビュオオッ!!!!
上から勢いよく、ナイフを振り下ろす。そのナイフは、初心者殺しに近づいていく。ルクの顔は、あたかも罪人を裁く処刑人のように冷えきってきた。
鋭く研がれたナイフが刺さる。だが、鮮血も周囲からの悲鳴も出なかった。
「え、え?た、助かった、、、のか?」
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