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第二章
緊迫
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先程のまでのヘラヘラとした雰囲気は立ち消え、強者の風格が溢れ出してた。この圧に比べれば、あの初心者殺しのそれは生易しく感じる。
「………怒ってるわけないじゃないですか。初対面の方に、怒る理由がない」
「ハハハ、ならいいんだけどー」
張っていた糸が急に緩んだかのように、空気が弛緩する。彼(もしくは彼女)の顔は、元に戻っていた。
ルクも、嘘は言っていない。いきなり声を掛けられて、驚いただけだ。
「ただ、とある人を探しているだけで」
「ああ、それなら僕のことだね」
(多分)彼は、キッパリと答えた。全てを知っている口振りだった。
ルクは、とある疑問に至る。
「いつから見てました?」
単刀直入に訊く。普通の思考とは言えないだろう。それこそ初対面の相手に対し、言うことではない。呆然とされるのがオチだろう。
「君がギルドを出てから」
しかし、当たりだった。当たっても嬉しくはない。むしろ、外れて欲しかったのがルクの本音だ。
「では、もう一度聞きます。因みに、怒ってないですからね?一体貴方は何者ですか?」
ルクは毅然とした態度で、先程と同じことを質問する。その狂気に飲まれることを恐れるかのようだった。
「おおっと、いけないいけない。名乗るのを忘れてたね」
さっき同じ質問をしたことは忘れているようだ。余程『怒り』の感情のことになると、盲滅法な行動をとるのだろう。
「お初にお目にかかります。喪失者達『憤怒』の喪失者、ダムと申します」
いっその事、丁寧ともとれる挨拶だった。言うなれば、ダムの下の服装の部分が出ている感じだ。
「喪失者でしたか……確かに、僕が探している人ですね」
「でしょでしょー?追っかけてきたかいがあったよぉ」
(追いかけてきたって、常人じゃ視認すら出来ないと思うんですけどね………)
本当に追っかけてきたというのなら、ルクの探している「同族」である線が濃くなる。
さらに、喪失者達というぐらいだから、このダム以外にもいる可能性がある。
「今のところは、君に用はないってことがわかったよー。君は僕にあるみたいだけどね」
「そうですね。なにか急いでいますか?」
「いいんや、別に」
「じゃあ、僕の話に付き合って下さいよ」
「いいよー」
危なかった。この狂人は、気まぐれなきらいがある。本人から情報を聞き出せる機会を無駄にする訳にはいかない。
「ではまず、今回の殺人事件の動機を教えてください」
冷ややかな空気の中、夜の喧騒が静まり返った街で、一風変わった取り調べが始まった。
__________________________________
「私、ちょっと出掛けてくるよ」
「え、どうしたの?」
ある程度話題がつき、酒場の雰囲気も夜のものへと変わりつつある時のこと。
クリネは、突然切り出した。
「私、やっぱりルクさんのことが心配です」
「………そんなことだろうと思ったわ。でもさ、どうすんの。ケータイとか繋げてんの?」
「……ううん」
最初の威勢はどこへやら。クリネは、現実に項垂れてしまう。
「ルクさんが欲しいって言うまで、連絡先は交換しないように決めたの」
「乙女か!」
乙女だった。自分のの奥手が、こんな所で足を引っ張ることになるとは思ってもみなかった。
「ど、どうしよう……」
「そんなこと言ったってねぇ」
クリネが困惑し、レマグが呆れていると。
「…っ……ぅぅぅううう、うん?」
エイコスが目覚めた。現時点でもっとも今のルクについて、詳しい人物といえよう。
余程、熟睡されていたのだろう。口の周りには涎がつき、酒場の机を侵蝕していた。
目を擦りながら、眠たそうに初心者殺しは言う。
「うぅんと……よく寝た。お、金銀姉妹じゃないか。どうしたんだ、二人とも思い悩んだような顔して」
「ルクさんを探してるんですけど、、どこ行ったか、知りませんか?」
「あ、分かるぞ」
「本当ですか!」
「うおっ!?」
クリネは机を叩きながら、ぐぐっとエイコスに近づく。エイコスは、彼女の予想外の行動に狼狽する。
「くっくっくっ、お前、ルクのことになるとなんでそんなに、、、ハハハハハハ!!分っかりやすいなぁ、もう!」
レマグは、堪えきれず笑い出す。ルクという単語が出るだけで、これだ。本人と話す時は、どんな風になるのか気になるところだった。
「と、とにかく情報を!」
「わっ、分かった。分かったから、その腕を離してくれぇ!」
クリネは興奮のあまり、エイコスの胸倉を掴んでしまっていた。レマグのからかいも聞こえていないようだった。
「……だが、その前に言っておきたいことがある」
いつになくエイコスが神妙な面持ちになったので、クリネとレマグも姿勢を正し、顔を固くする。
「あの時は、申し訳なかった。彼を煽るためとはいえ、あんなことを言っしまって」
あの時、とはルクとエイコスの決闘のことを指しているのだろう。レマグは依頼のために、現場にいなかったようなので、クリネが説明をする。
「へぇー、私がいない間に例の洗礼があったと。でも、良かったな、クリネ」
「え?」
「いや、だってさ。クリネのために、ルクは怒ってくれたんだろ。そんな嬉しいことないよ、普通」
「た、確かに……」
ガランド戦の時もそうだった。
彼は、クリネのことを最底辺だといったガランドに対し、怒りを露呈していた。クリネ自身ですら、正当な評価だと思っていたというのに。
「そうか、やはり彼とはそういう関係だったか。それじゃ、余計申し訳ないことをしたな、済まない」
「ち、違いますぅ!」
クリネは、即座に否定した。レマグといい、エイコスといい、どうして皆ルクと自分の関係を邪推するのだろうか。
「そう、なのか?てっきり彼」
「ルクさんは、どこにいるんですか!」
これ以上は駄目だ。こんな噂が出回れば、きっと彼は困ってしまうだろう。
自分なんかとそういった関係を持っているなど、不利でしかない。
自分は………嬉しいのだが………
すると、エイコスがマスターの気遣いで置かれていた水を飲み、
「よし、やっと酔いが収まって来たみたいだ。ルクの居場所を話そう。彼はな……」
と言って彼は、酒場でのルクとの会話から話し始めた。
__________________________________
「それは簡単だよ。彼が『怒れる人』だったからさ」
「『怒れる人』とは?」
ルクは、聞き慣れない単語に眉を顰めた。
「言葉の通り、怒りという愚かな感情に支配された馬鹿のことをそう呼んでる」
やはり、ダムは『怒り』という感情を酷く嫌っている。
他の 喪失者達も、失った感情を嫌う傾向があるのだろうか。
「なんで、そんなに『怒り』を嫌うんですか?」
「君に教える義理があるとでも?」
少し、ダムの声が固くなる。聞かれたくないことのようだ。教えるつもりもないらしい。
「質問されてばかりじゃ、こちらも面白くない。こっちからもいくつ訊かせてもらうよ」
質問をする上で、予想していたことではあった。
しかし、彼の態度が有無を言わさずといった感じだったのが、穏やかではないが。
「クリネという少女に、心当たりは?」
再度、空気が緊張に包まれていくのをひしひしと感じた。
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