碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

文字の大きさ
20 / 29
第二章

聞込

しおりを挟む
現場に着いたのは、既に太陽が沈みかけている頃だった。

 「ここ、か」

 想像していたより、寂れたところだった。

 繁華街の裏通りというぐらいだから、もっとスナックなどが立ち並び、ネオンの光るところを想像していた。

 しかしいざ足を運んでみると、店はあるものの、少し奥に行けばすぐ住宅地になっていて、煌びやかとは程遠かった。



  (まあ、今は規制線のせいで、ある意味目立っているんですけどね)

 

 治維連のものと思われる規制線が、通りのあらゆる入口に張られていた。警戒色の規制線には、太い黒文字で立入禁止キープアウトと書かれている。民衆の噂は、正しかったのだろう。

 これは、ニュースになるのも時間の問題だと思われた。

 捜査が進み、ある程度統制されたもしくは改竄された情報が、媒体メディアを通して一般市民に伝えられる。市民はそれを信用し、真実だと捉え偏見が生まれる。

 この世界の基本的な姿であり、おぞましい点でもあった。

 

 「おっと、君。ここからは立入禁止だよ。見たい気持ちは分かるけどね…家に帰った方がいい」

 規制線の中から出てきた中年の小太りな男性が、ルクを止める。彼は恐らく治維連の者で、ルクのことを事件に興味がある学生とでも思ったのだろう。

 制服を着ている訳では無いが、今は放課後の時間帯なので、勘違いされるのも当然であった。

 「あ、すいません。ちょっと寄ってみようかなと思っただけです。すぐに帰ります」

 ルクはぺこりと頭を下げ、素直に引き返すことにした。

 頭の中では、事件現場の景色を反芻しながら。

 ルクの得意技の一つに、『記憶』がある。一度見たものを正確かつ長期的に覚えることが出来るのだ。

 (死体の倒れ方からして、話の通り正面から一発食らっていますね。血痕が引き摺られたかのように引き伸ばされていることから、多分吹き飛ばされたあと、地面を擦りながら止まったと考えていいでしょう。やはり、常人じゃありえない……)

 ルクは現場を見て、ますます自分と同じ毛色の『異常さ』を感じ取っていた。

 事件を起こした彼(あるいは彼女)に話を聞けば、何かわかるかもしれない。

  (そのためにも、まずは聞き込みですね)

 地道な努力が大きな成果に繋がることを、駆け出しでありながら、上級になったハンターは知っていた。



 __________________________________



 
 「つまるところ、このエルンストは今までに無い……ってまた話しすぎちまったな」
 
 「えっ、いやそんなことないよっ」

 取り繕うようにクリネは笑うが、出てくるのは乾いた笑みばかりだった。話半分だったなんて口が裂けても言えないだろう。

 「いいよ。分かってるさ、クリネが聞いてないことぐらい。それに、それぐらい大切なんだろ、そのルクって野郎のことが?」

 内容はがさつに見えるが、とても口調は穏やかだった。全てわかった上で、そうしてるとばかりに。

 「いけねぇな、つい自分のこととなると話しすぎちまう。私の悪い癖だ」

 そう言うと、レマグはニカッと歯を見せて笑った。

 「そんな………ううん、その前にありがとう、だね」

 クリネは謝罪をくちにしたあと、謝るだけでは失礼だと思い、感謝の意を表する。

 「かぁっー、やっぱ、こーゆーとこだよな!そりゃ、落ちるわ」

 「なんのこと?」

 「しかも、本人は無自覚ときた!」
 
 先程ならレマグのテンションが妙に高い。コーラに酒精エチルアルコールでも入っていたのだろうか。

 レマグは一気に酒を呷ると、ドンと大きな音を立てて、テーブルにグラスを叩きつけた。

 「クリネ、あんた。しなさいよ?そのルクとかいうやつを」

 「う、うん」

 恐らく、彼女はレマグの言わんとするところを理解していないだろう。そう思ったレマグは、溜息を心の中でついた。

  (クリネの奥手っぶりは昔からだからね……どうしたもんかな……)

 と、まるで母親のようにクリネのことを案ずるレマグであった。





 __________________________________






 聞き込み調査によって、いくつか判明したことがあった。近くの民家や、飲食店(深夜営業)などからしか、話を聞けなかったので思ったより量は少なかった。さらに、質が担保されている訳でもない。

 「この裏通りはね、人通りが少ないんだよ。ここに住んでる人や、店の常連さんとかは別だがね。普通の人は来ない来ない」

  「あの事件のことかい?あー、夫がその時間帯に事件現場を通ったみたいなんだけど、なんかそこから出てくる人をみたらしいよ。え、格好?残念だけど、暗くてよく見えなかったって言ってたわね」

 「ぼくねー、(民家の方を指さしながら)あっちに住んでるんだけどねー。(事件現場を指さしながら)こっちからね、寝てる時に声がきこえたの。だれかがかんじだった!」

  年齢、性別関係なく聞き込みをし、今までの情報と統合してみる。

  昨日の明け方、もしくは一昨日の深夜頃、アムナ区第一繁華街裏通り五丁目にて、彼(もしくは彼女)が若者を襲った。動機は不明。人通りが少なく、伴って目撃者もほとんどいない。

 (状況はあまり芳しくない、か………)

  まだ犯人を特定するのには、情報が足りなさ過ぎる。しかし、ここで焦っても早計だろう。

 「どうしたものですかねぇ」

 ルクは市街地を歩きながら、呟く。自宅へと帰る途中のことだった。日は落ち、まさにあの事件の犯行時刻付近のことだろう。

 人も疎らで、居酒屋やスナックなどの店が街路を明るく照らす。少し肌寒い風が吹く夜であった。

 すると、

 「さて、本当にどうしたものかねぇ、アハハハハハハ」

 「!?」

  背後から笑い声がする。妙なのは、

 下は手入れの施された年代物のスーツ。かなり上質なようで、タックもしっかりとついており、素材も高級シルクが使われているのが分かった。

 しかし、上だけ切り取ってみれば怪しい風貌の者と言えるだろう。ありとあらゆる装飾品が金製で、派手な柄のアロハシャツがそのいかがわしさをさらに押し上げていた。

 「あー、そんなに警戒しないでくれよ。別に君を取って食おうって訳じゃないんだ」

 「では、一体あなたは何者なんです?」

 「今、君?」
 
 ルクの話など、まるで聞いていないかのようだった。噛み合っていないと言うべきか。

 「怒っていると言ったら?」

 「うーん、そうだねー。分かりやすく言えば……」

 そこで一旦彼(もしくは彼女)は言葉を切り、急に声の圧を増して言う。






 「





 

 
 

 

 

 


 

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...