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第二章
交渉
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クリネが起こした行動は、簡単だった。
「ラムレットさん、ルクさんの情報公開を求めます!」
「ええええっ!?」
普段の彼女からすれば、考えられないほどの剣幕であった。
額に汗が浮かび上がり、その玉のような肌にはほんのり朱が指していた。
「む、むむ無理ですよぉー!プライバシーの保護ってものがありましてですね……」
「そこを!何とか!」
「そ、そう言われましてもね……」
「絶対バラしませんので!」
食い下がるクリネ。どうしたものかと、ラムレットも頭を悩ませる。既知の仲であるので、無下に断ることも出来ない。
「じゃあ、一応狩猟協会長に伺ってみますね…」
これでも、ラムレットはかなり譲っている自覚があった。知りたい相手の個人情報を教えろというのだから、言ってることはナンパ野郎と変わらない。
「お願いします!」
「でも、無理だと思いますよー。なにせ、ギルド約款に抵触しますからね」
「それでもです」
クリネは、自信のある表情を崩さない。
それもそのはず、彼女にはある秘策があったのだ。必ず、教えて貰える確信があった。
数分後、
「クリネさん、ギルドマスターがお呼びです。でも、特別ですよ?あの人は忙しいんですから。一応」
「はい!ありがとうございます」
クリネはニヤつきが抑えられなかった。ここまで来れば、あとは実行するのみだ。
(やっと、ルクさんに会える♪)
皮算用だと分かっていたが、その光景を想像せざるを得なかった。
それぐらい彼女にとって、ルクは大切な存在だった。問題は、彼女がその自覚がないことだが。
ギルドの奥へと足を運び、上質な檜扉をノックする。リノリウムの床と高解像度液晶で出来た壁の中では、浮いて見えるのが残念である。
「どうぞ」
部屋の中から、声がする。聞き間違えようのない低い声だった。今どき珍しいドアノブを捻りながら、入る。
「失礼します。情報開示の件でお話をしに」
「ああ、聞いているぞ。まぁ、そこに掛けてくれ」
相手がクリネだと分かると、厳しい顔つきからプライベートな柔らかい表情になる。彼は親しい者に対しては、常体で話すのだ。
最近は、ルクにも敬語を使っていない。
「結論から言うと、無理だ」
「ですよね……」
これは、予想していたことだった。当たり前だ。これが罷り通っているのなら、自分の情報も漏洩の危険が出てきてしまう。
「実は、会って欲しい人物が……」
「ん、まままままさか副長かぁ!?」
急に、わなわなと震え出すアルフレッド。記憶が蘇ったのか、前に踏まれていた所をさすっている。
「違いますよ?」
「ぎゃああああっ!」
答えたのは、ナシエノ本人だった。相変わらず、どう入ってきたのかは不明だ。
エルフ特有の耳を持った美女。
一言で表すならば、スーツが似合うクールビューティー、といったところか。
「ささ、私がいないと思ってお続け下さい」
「いや、普通に席外せよ」
「ダメですか……仕方ない。じゃあ、ここに盗聴器置いときますね」
「差し入れのように、置いていくな。はい、それ持ってとっとと立ち去れ!」
「はーい」
すごすごと、退出していくキツい上司系エルフ。
(ひょっとして、一番偉いのってナシエノさんなんじゃ……)
クリネは心の中でそう思いつつ、言わないでおくことにした。
「あいつは、何しでかすか分からんからな。やっと、本題に戻れるな。それで、合わせてたい人とは?」
「入ってきて下さい」
クリネが振り向きざまに、扉へ声をかけると、
「了解でーす」
軽い返事が返ってきた。
「この声は…まさか……」
「そのまさかだよ。爺ちゃん」
「おおっ、レマグか!久しぶりだな」
扉を開けて入ってきたのは、ギルマスの孫娘で、クリネの唯一無二の親友だった。
「でも、なぜお前が来るのだ?」
「ふふふ。爺ちゃん、分かってないなー。交換条件だよ、交換条件」
「というと?」
アルフレッドは、首を傾げる。まだ、自分の置かれている状況を理解していない。
彼女が出てきた時点で詰みだというのに。
レマグは内心ほくそ笑みながら、
「もし、クリネの願いを叶えてくれたら、デート幾らでも行ってあげるよ」
「な、なにぃ!」
目に見えて、表情の変わるアルフレッド。いつの間にか、孫娘はクリネの横に座り足を組んで、勝ち誇った顔になっている。
(ベルルカちゃん襲撃事件で、ギルドマスターがレマグに弱いことは、分かってました……!)
__本当はダメなのですが……えっと、あの、ベルルカ様と孫の歳が近いものでして……
彼は、孫や孫に歳が近い者のためなら、規定違反の行動すら厭わないことが判明している。
「もし、叶えてくれなかったら……」
「ゴクリ……」
「ナシエノさんに、ベルルカちゃんの依頼のこと、言っちゃおうかなぁー」
「げ、お前それどこで聞いたんだ」
規定違反を犯していること自体も、交渉材料の一つだった。あのエルフにことがバレれば、歴戦のハンターとて一撃だろう。
効果は覿面だった。
「よし、断る理由が無くなったな。いや、正確には断れなくなったな。もうこの際規約だの約款など、どうでもいい」
最後の方は涙目になりつつ、アルフレッドは言った。
「これにて、無事交渉成立だな、クリネ!」
「そうですね!」
そんなギルマスとは対照的に、女性ハンター二人の笑顔は、応接間で燦々と輝くのであった。
そこに、一人の部外者が耳をそばだてている曲者がいるなどとは、誰も思わなかった。
部屋の外から扉に耳をつけ、声を拾う。
(ふむふむ。あのギルマスは後で折檻するとして、彼女たちの目的は何なのかしら?)
エルフ特有の耳は、聴覚が大変優れていたのであった。
「ラムレットさん、ルクさんの情報公開を求めます!」
「ええええっ!?」
普段の彼女からすれば、考えられないほどの剣幕であった。
額に汗が浮かび上がり、その玉のような肌にはほんのり朱が指していた。
「む、むむ無理ですよぉー!プライバシーの保護ってものがありましてですね……」
「そこを!何とか!」
「そ、そう言われましてもね……」
「絶対バラしませんので!」
食い下がるクリネ。どうしたものかと、ラムレットも頭を悩ませる。既知の仲であるので、無下に断ることも出来ない。
「じゃあ、一応狩猟協会長に伺ってみますね…」
これでも、ラムレットはかなり譲っている自覚があった。知りたい相手の個人情報を教えろというのだから、言ってることはナンパ野郎と変わらない。
「お願いします!」
「でも、無理だと思いますよー。なにせ、ギルド約款に抵触しますからね」
「それでもです」
クリネは、自信のある表情を崩さない。
それもそのはず、彼女にはある秘策があったのだ。必ず、教えて貰える確信があった。
数分後、
「クリネさん、ギルドマスターがお呼びです。でも、特別ですよ?あの人は忙しいんですから。一応」
「はい!ありがとうございます」
クリネはニヤつきが抑えられなかった。ここまで来れば、あとは実行するのみだ。
(やっと、ルクさんに会える♪)
皮算用だと分かっていたが、その光景を想像せざるを得なかった。
それぐらい彼女にとって、ルクは大切な存在だった。問題は、彼女がその自覚がないことだが。
ギルドの奥へと足を運び、上質な檜扉をノックする。リノリウムの床と高解像度液晶で出来た壁の中では、浮いて見えるのが残念である。
「どうぞ」
部屋の中から、声がする。聞き間違えようのない低い声だった。今どき珍しいドアノブを捻りながら、入る。
「失礼します。情報開示の件でお話をしに」
「ああ、聞いているぞ。まぁ、そこに掛けてくれ」
相手がクリネだと分かると、厳しい顔つきからプライベートな柔らかい表情になる。彼は親しい者に対しては、常体で話すのだ。
最近は、ルクにも敬語を使っていない。
「結論から言うと、無理だ」
「ですよね……」
これは、予想していたことだった。当たり前だ。これが罷り通っているのなら、自分の情報も漏洩の危険が出てきてしまう。
「実は、会って欲しい人物が……」
「ん、まままままさか副長かぁ!?」
急に、わなわなと震え出すアルフレッド。記憶が蘇ったのか、前に踏まれていた所をさすっている。
「違いますよ?」
「ぎゃああああっ!」
答えたのは、ナシエノ本人だった。相変わらず、どう入ってきたのかは不明だ。
エルフ特有の耳を持った美女。
一言で表すならば、スーツが似合うクールビューティー、といったところか。
「ささ、私がいないと思ってお続け下さい」
「いや、普通に席外せよ」
「ダメですか……仕方ない。じゃあ、ここに盗聴器置いときますね」
「差し入れのように、置いていくな。はい、それ持ってとっとと立ち去れ!」
「はーい」
すごすごと、退出していくキツい上司系エルフ。
(ひょっとして、一番偉いのってナシエノさんなんじゃ……)
クリネは心の中でそう思いつつ、言わないでおくことにした。
「あいつは、何しでかすか分からんからな。やっと、本題に戻れるな。それで、合わせてたい人とは?」
「入ってきて下さい」
クリネが振り向きざまに、扉へ声をかけると、
「了解でーす」
軽い返事が返ってきた。
「この声は…まさか……」
「そのまさかだよ。爺ちゃん」
「おおっ、レマグか!久しぶりだな」
扉を開けて入ってきたのは、ギルマスの孫娘で、クリネの唯一無二の親友だった。
「でも、なぜお前が来るのだ?」
「ふふふ。爺ちゃん、分かってないなー。交換条件だよ、交換条件」
「というと?」
アルフレッドは、首を傾げる。まだ、自分の置かれている状況を理解していない。
彼女が出てきた時点で詰みだというのに。
レマグは内心ほくそ笑みながら、
「もし、クリネの願いを叶えてくれたら、デート幾らでも行ってあげるよ」
「な、なにぃ!」
目に見えて、表情の変わるアルフレッド。いつの間にか、孫娘はクリネの横に座り足を組んで、勝ち誇った顔になっている。
(ベルルカちゃん襲撃事件で、ギルドマスターがレマグに弱いことは、分かってました……!)
__本当はダメなのですが……えっと、あの、ベルルカ様と孫の歳が近いものでして……
彼は、孫や孫に歳が近い者のためなら、規定違反の行動すら厭わないことが判明している。
「もし、叶えてくれなかったら……」
「ゴクリ……」
「ナシエノさんに、ベルルカちゃんの依頼のこと、言っちゃおうかなぁー」
「げ、お前それどこで聞いたんだ」
規定違反を犯していること自体も、交渉材料の一つだった。あのエルフにことがバレれば、歴戦のハンターとて一撃だろう。
効果は覿面だった。
「よし、断る理由が無くなったな。いや、正確には断れなくなったな。もうこの際規約だの約款など、どうでもいい」
最後の方は涙目になりつつ、アルフレッドは言った。
「これにて、無事交渉成立だな、クリネ!」
「そうですね!」
そんなギルマスとは対照的に、女性ハンター二人の笑顔は、応接間で燦々と輝くのであった。
そこに、一人の部外者が耳をそばだてている曲者がいるなどとは、誰も思わなかった。
部屋の外から扉に耳をつけ、声を拾う。
(ふむふむ。あのギルマスは後で折檻するとして、彼女たちの目的は何なのかしら?)
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