碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第二章

追跡

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 ギルマスから聞いた情報は、思いのほか少なかった。

 得られたのは本名や年齢など、本人と少し面識があれば分かるようなことがほとんどだった。

それでも、住所を聞き出せたのは大きかったといえよう。

 最近、どこかのアパートに住んだと本人から聞いていたが、場所を聞く勇気がなかった。





 勢いに任せて、メールアドレスまで聞きだそうとした時は、流石にレマグに止められた。

 彼女曰く、

 「そーゆーのは、本人から聞かないと意味が無いの。そもそも、なんで持ってるの、って言われたら、どうするつもり?」

 とのこと。

 




 ルクが住んでいるのは、だった。

 が数多く存在しているので、大小様々な事件が多発しているイメージがある。

 ルクは繁華街から少し離れているみたいだが、と思った。



 クリネは、敢えて徒歩で彼の自宅へ向かうことにした。



 (もしかしたら、今後も行くことになるかもですから、周辺地理を知っておくのは当然なのです!……………………あくまで、もしかしたらですけど!)



 自分自身に言い聞かせるようにして、歩みを進めていく。

 とはいっても、自分の生まれ育った国の人気区であるので、区に入るのには苦労しなかった。

 代わりに開示に手間取ったせいで、日は落ちきり、夜の帳が下りてしまっていたのだが。
 
 それでも繁華街は熱気に包まれ、ネオンがギラギラと街全体を照らしている。むしろ、これからが活動時期だと言わんばかりであった。

 至る所から流れ出てくる焼き鳥や酒の匂いが、街を通る人々の胃を刺激する。そして、吸い込まれるようにして人々が店へと入る。



 「今から、三件目に行っちゃう~?」


 「よしゃっー!やっと、酒が飲めるぜぇっ!」


 「今日は、独り酒だぜ……」



 クリネは、このかしましくも陽気な雰囲気を嫌いになれなかった。見ているこちらも、元気になれるからだ。

 護身術には心得があるので、不埒な輩も心配には及ばなかった。


 「ここを曲がって、この裏道を……あれ、ここ前も通った?」


 確かに区に入るのは容易かったが、裏通りとなると地元住民でもない彼女にとっては、迷路と遜色がなかった。

 「あれれ、ここ何処だろう……」

 クリネが悩んでいると、

 「えっと、お嬢さん?なにか、お困りのことでも?」

 「ふぇ?」
 
 変な声が出てしまった。突然、声を掛けられたからだ。間違いなく、男の声だった。

しかも、背後を取られるなんて、ハンターとして許されざることだろう。



 一番気になったのは、そのだった。

 薄い布で織られたと見られる服で身を包み、腰には妙に刀身の長い剣を指している。履物は靴と言うよりもサンダルに近い。草を編んで作ってあるようだ。

  

 「い、いやぁ。道に迷ってしまいまして……」

 「ああ、そういうことでしたら。拙者、ここら辺住みなので安心してくだされ」

 (せっ、せっしゃ??)

 聞き慣れない単語だが、文脈から判断するに一人称だとは思った。

 「ここを右に曲がって、突き当たりを今度は左に………」

 端末の画面に表示された地図をなぞりながら、説明をしてくれる。じっくり見て、忘れないようにする。

  「そして、左手にラーメン屋が見えてきたら、その隣のアパートが目的地かと」

 「ありがとうございます!」

  いくら格好が怪しいとはいえ、道を教えてくれたのだ。きっと、いい人に違いない。

 感謝をすべきだろう。

 「いえ、礼には及びませぬ」

 語尾が少々変だが、謙虚な人だと思った。

 クリネは頭を下げ、教えられた道を歩き始めた。







 ______しかし、現実はそう甘くはなかった。



 「ん、誰が居る?」

 暗い路地裏から、再度大通りに出た時の事だった。あとはラーメン屋を探すだけだっだのだが………

 人が倒れていた。数十メートルほど先だろうか。

 店の明かりも朧気に辺りを照らすだけで、月光がなかったら見過ごしていただろう。視力は普段から鍛えているので、自信があったとはいえ。


 このご時世、このような人行き倒れが少なからず存在する。家を何かの理由で失い、ろくに飯も食べることが出来ずに、一生を終える者が。

 駆け寄って行く。すると、何かの液体が体から溢れているのが分かった。

 その独特の鉄のような匂いが鼻につく。間違いない、だ。

 その事が分かると、急いで、応急処置を行おうと更に近づく。

 当たり前の行動だったが、そのせいで気づいてしまった。


「え、あれって、えええっ!!??ル、どうしたんですか、ルクさん!目を覚まして下さいよ!ルクさん、ルクさん、ルクさああああああぁん!」

 独特の黒髪。ハンター専用の戦闘服を来ているのにも関わらす、丸腰。

 見間違いようがない。
 
 その血塗れで倒れているものの正体は、ルクだった。

 その状況が呑み込めず、ほんの数刻だけ呆然としていたが、すぐに処置を始めた。

 うつ伏せになった彼の体を、急いで引き起こす。血が手にべっとり付着するが、クリネは気にも留めない。

 彼の体に手を当てると、力を込める。すると、その部分が合わす輝きだす。

 (マナを送り込んで、最低限の治癒能力を確保出来れば……!)

 世間一般には、治癒魔導というものが存在するが、煩雑かつ複雑な魔導式演算が必要となる。また、先天的な治癒魔導の才能に恵まれる者も少ない。

 クリネに使えるわけがなかった。

 そのため彼女がとったのは、彼自身の能力に頼ることだった。

 今まで、彼と共に戦ってきたクリネだからこそ知っている。彼には特異な能力があるということを。発動条件から効能まで一切知らないが、今はそれに頼るしか無かった。

 「目覚めてっ………お願い!」



 自分が、今一番会いたかった人。その望みは、最悪の形で叶えられた。

 何よりも先に出てきた感情は、だった。



 (自分がついていれば、少なくとも早急な処置ができたはずなのに!)

 許せない。あの時、多少無理やりにでも彼に同行しなかった自分が。



 (ルクさんに、こんな深い傷を負わせるなんて!この人が何をしたっていうの!?)

  許さない。自分の大切な人をこんな風にした誰かを。



 
 とめどなく溢れてくる『怒り』の感情。胸中に浮かび上がった二つの『怒り』は、互いにぶつかり合い、その苛烈さを増していく。


 絶対に許せない、許さない。

 許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない許さない許せない。










  「クリネさん」





 
  自分を呼ぶ声がした。唐突だった。






 
  「そんなふうに、怒りに飲まれてはいけません」







  自分を諭す声がした。その声には、一点の曇りも、少しの震えもない。






 「僕は、こんな程度でやられる玉じゃありません」

 
 「ルク、さん……?」


 「はい、そうです。心配かけて申し訳ないです」

 


 彼は、そう言ってクリネに微笑んだ。まるで、慈母のようであった。

 クリネが見てきた中で、最も自然で、最も柔和で、、、、、、


 そして、最も笑みだった。
 

 


 

 
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