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第二章
復活
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「……大丈夫なんですか?」
腹部を中心とした大きな痣、折れたと思われるおかしな曲がり方をした腕や足。血色の悪い肌に、弱々しく痙攣する唇。
そして、口から溢れ出てくる血。
彼の体は、誰が見ても満身創痍だと答えるだろう。
「はい、大丈夫ですよ。こんなの怪我のうちに入りませんよ」
もっとも被害者本人が、一番状態を軽く見ているというのには、驚きだった。
いつまた気を失うか、分からないというのに。
「で、でも、ダメですっ!やっぱり、安静にしてなきゃ。ほら、私がルクさんの家に運びますので」
「あ、すみません。そうしてくれると、助かります……よいっ、しょっと」
「うおっ……と」
そう言うと、彼はふらつきながらも立ち上がる。慌ててクリネは近づき、彼を支える。
「もぅ、無理しないで下さいよ……」
彼の体は、思ったよりも軽かった。死期が近づくと体重が減少するという話を思い出し、ドキリとする。
しかしそれは老衰の特徴だった思い直し、安堵する。
そんな無駄なことを考えてしまうほど、彼女の気は動転していた。
「ルクさんの自宅は、知ってます。だからもう、安心して寝ていいですよ」
「なんで、僕の」
「あ、や、それは聞かないお約束ですよ?」
クリネはしどろもどろになりつつも、答える。友達をダシにして、あなたの情報を手に入れたなど言えるはずがない。
「うーん、引っかかるとこはありますが、クリネさんの可愛さに免じて深くは聞きませんよ」
「ふ、ふぇっ!?」
ルクには適わなかったが、何とかバレずに済んだ。クリネの慌てふためく様子を見て、ようやく彼はいつものように微笑んだ。
__________________________________
何処ともしれぬ、路地裏での会話だった。
「どうだった?そのルクとか言うやつは」
暗闇の中、片方が言う。その口調は重く、諭すようなものにも感じられる。
顔は暗がりでよく見えないが、溢れ出る覇気によって、周囲に人を近寄らせないのは確かだった。
「ん?思ってたより、弱かったなぁ。なんか拍子抜けだよ。あの御方が注目した奴だとは、到底思えないね」
もう片方が答える。質問者とは対照的に、明るい口調だった。しかし、その声音には、硬さがあった。
「あの御方の言うことは絶対だ。それで……「鍵」の方はどうした?」
「見つからなかったよー。接触はしてるはずなんだけど、彼は吐いてくれなかったの」
「お前は、尋問が下手くそなんだ。やりすぎるのはよくない。最近もほら、事件を起こしたそうじゃないか」
「えー、だってぇー、あの人が「怒れる人」だっただもん」
「それでもだ。この力を手に入れられたのは、どなたのお陰だと思ってる。関係の無い殺しは、私達の存在を世に広めてしまうだけだぞ」
物騒な単語が並ぶ。少なくとも、一般人の会話ではないだろう。
二人は、そんな単語が出てきても、一切表情も変えない。当たり前だと、言わんばかりであった。
「分かったよぉ。でもさ、」
そこで軽い口調の方が、言葉を切る。嵐の前の静けさというか、これから重大なことを言うかのような雰囲気がある。
自然と、相手の表情も引き締まる。ただでさえ、迫力のある面に更なる皺が追加される。
「あいつ、_____」
__________________________________
ルクに肩を貸しながら、何とかルク家に到着する。彼の案内もあり、迷うことは無かった。時間が時間なので、酔っ払いに間違われたらしく、クリネ達を見ても怪しむ人はいなかった。
彼の部屋は、アパートの二階の階段から最も遠い所に位置していた。
「ふぅ……ただいまです……」
「なんか新鮮ですね。ずっと、一人暮らしだったので」
彼をリビングのソファまで持っていき、横にさせる。流血は、タオルを拝借し拭いた。
クリネも着ていた軽鎧を脱ぎ、床にへたり込む。
「ここまで、運んで頂きありがとうございました。僕はもう大丈夫ですので」
ルクが、言外に帰宅を勧めてくる。自分はなんとかなるから、帰って貰って構わないと。
「重体の人を一人にするなんて、出来ません。それに、こんな時間に女の子を独りで帰らせるつもりですか?」
クリネはそれでも、食い下がった。自分でも、意地の悪い問いかけだとは思う。
「そう言われては、仕方ありませんね……」
彼はソファーの上で、力なく笑った。
ルクは、その後直ぐに眠りについた。余程のダメージだったのだろう、縁起でもないが、まるで死んでいくかのようだった。
こんな時でも規則正しいルクの寝息のみが、クリネの安心できる裏付けとなっていた。
「これで、ようやく私も………あれ」
クリネは、重大なことに気がつく。部屋に入った時は、気が動転しており、気にも留めなかった。
「私、どこで寝ればいいんだろう……」
__________________________________
応接間にて。
クリネが足早に立ち去ったあとも、アルフレッドは孫娘と会話をしていた。話題は、ここに先ほどまでいたハンターについてだった。
「爺ちゃん、あの子大丈夫だと思う?」
「うん?クリネのことか?そうだな……」
アルフレッドは、顎に手を当てる。レマグは、それが彼の熟考する癖だということを知っていた。
「何かあっても、ルクが何とかしてくれるだろ」
「そんなもんかねぇ~」
他力本願なことこの上ないが、見方を変えれば、ルクの実力が買われているということでもある。
しかし、レマグはその実力をよく知らなかった。アルフレッドだって、実際に見ているわけではないのに、どうしてそこまで自信を持てるのだろう。
「あの『戦神』に、見込みありと言わしめたやつだぞ。実力は担保されとる」
「え、マジ?」
レマグはそれを聞いて、ようやく彼を信用することが出来た。
アルフレッドの旧友であり、魔導戦争を生き残った猛者が言うのだから、間違いはないだろう。
レマグは、昔、調子に乗って彼に挑んだことがあるが、見向きもせず返り討ちにされたことを思い出す。
「じゃあさ、じゃあさ」
「どうした?……まさか、デートは嘘だったなんてことはないよな……ないよな!」
ワナワナと震え始めるアルフレッド。
「そんなことは、言わないよー。いやね、もしそんな彼が、後れを取るような相手がいるとしたら、どんな人なんだろうって」
「なんだ、そんなことか」
アルフレッドの震えが、ピタリと止んだ。彼は、そんなこと言うまでもないといった感じで、レマグに告げた。
「そんな輩は、人間ですらないよ」
腹部を中心とした大きな痣、折れたと思われるおかしな曲がり方をした腕や足。血色の悪い肌に、弱々しく痙攣する唇。
そして、口から溢れ出てくる血。
彼の体は、誰が見ても満身創痍だと答えるだろう。
「はい、大丈夫ですよ。こんなの怪我のうちに入りませんよ」
もっとも被害者本人が、一番状態を軽く見ているというのには、驚きだった。
いつまた気を失うか、分からないというのに。
「で、でも、ダメですっ!やっぱり、安静にしてなきゃ。ほら、私がルクさんの家に運びますので」
「あ、すみません。そうしてくれると、助かります……よいっ、しょっと」
「うおっ……と」
そう言うと、彼はふらつきながらも立ち上がる。慌ててクリネは近づき、彼を支える。
「もぅ、無理しないで下さいよ……」
彼の体は、思ったよりも軽かった。死期が近づくと体重が減少するという話を思い出し、ドキリとする。
しかしそれは老衰の特徴だった思い直し、安堵する。
そんな無駄なことを考えてしまうほど、彼女の気は動転していた。
「ルクさんの自宅は、知ってます。だからもう、安心して寝ていいですよ」
「なんで、僕の」
「あ、や、それは聞かないお約束ですよ?」
クリネはしどろもどろになりつつも、答える。友達をダシにして、あなたの情報を手に入れたなど言えるはずがない。
「うーん、引っかかるとこはありますが、クリネさんの可愛さに免じて深くは聞きませんよ」
「ふ、ふぇっ!?」
ルクには適わなかったが、何とかバレずに済んだ。クリネの慌てふためく様子を見て、ようやく彼はいつものように微笑んだ。
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何処ともしれぬ、路地裏での会話だった。
「どうだった?そのルクとか言うやつは」
暗闇の中、片方が言う。その口調は重く、諭すようなものにも感じられる。
顔は暗がりでよく見えないが、溢れ出る覇気によって、周囲に人を近寄らせないのは確かだった。
「ん?思ってたより、弱かったなぁ。なんか拍子抜けだよ。あの御方が注目した奴だとは、到底思えないね」
もう片方が答える。質問者とは対照的に、明るい口調だった。しかし、その声音には、硬さがあった。
「あの御方の言うことは絶対だ。それで……「鍵」の方はどうした?」
「見つからなかったよー。接触はしてるはずなんだけど、彼は吐いてくれなかったの」
「お前は、尋問が下手くそなんだ。やりすぎるのはよくない。最近もほら、事件を起こしたそうじゃないか」
「えー、だってぇー、あの人が「怒れる人」だっただもん」
「それでもだ。この力を手に入れられたのは、どなたのお陰だと思ってる。関係の無い殺しは、私達の存在を世に広めてしまうだけだぞ」
物騒な単語が並ぶ。少なくとも、一般人の会話ではないだろう。
二人は、そんな単語が出てきても、一切表情も変えない。当たり前だと、言わんばかりであった。
「分かったよぉ。でもさ、」
そこで軽い口調の方が、言葉を切る。嵐の前の静けさというか、これから重大なことを言うかのような雰囲気がある。
自然と、相手の表情も引き締まる。ただでさえ、迫力のある面に更なる皺が追加される。
「あいつ、_____」
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ルクに肩を貸しながら、何とかルク家に到着する。彼の案内もあり、迷うことは無かった。時間が時間なので、酔っ払いに間違われたらしく、クリネ達を見ても怪しむ人はいなかった。
彼の部屋は、アパートの二階の階段から最も遠い所に位置していた。
「ふぅ……ただいまです……」
「なんか新鮮ですね。ずっと、一人暮らしだったので」
彼をリビングのソファまで持っていき、横にさせる。流血は、タオルを拝借し拭いた。
クリネも着ていた軽鎧を脱ぎ、床にへたり込む。
「ここまで、運んで頂きありがとうございました。僕はもう大丈夫ですので」
ルクが、言外に帰宅を勧めてくる。自分はなんとかなるから、帰って貰って構わないと。
「重体の人を一人にするなんて、出来ません。それに、こんな時間に女の子を独りで帰らせるつもりですか?」
クリネはそれでも、食い下がった。自分でも、意地の悪い問いかけだとは思う。
「そう言われては、仕方ありませんね……」
彼はソファーの上で、力なく笑った。
ルクは、その後直ぐに眠りについた。余程のダメージだったのだろう、縁起でもないが、まるで死んでいくかのようだった。
こんな時でも規則正しいルクの寝息のみが、クリネの安心できる裏付けとなっていた。
「これで、ようやく私も………あれ」
クリネは、重大なことに気がつく。部屋に入った時は、気が動転しており、気にも留めなかった。
「私、どこで寝ればいいんだろう……」
__________________________________
応接間にて。
クリネが足早に立ち去ったあとも、アルフレッドは孫娘と会話をしていた。話題は、ここに先ほどまでいたハンターについてだった。
「爺ちゃん、あの子大丈夫だと思う?」
「うん?クリネのことか?そうだな……」
アルフレッドは、顎に手を当てる。レマグは、それが彼の熟考する癖だということを知っていた。
「何かあっても、ルクが何とかしてくれるだろ」
「そんなもんかねぇ~」
他力本願なことこの上ないが、見方を変えれば、ルクの実力が買われているということでもある。
しかし、レマグはその実力をよく知らなかった。アルフレッドだって、実際に見ているわけではないのに、どうしてそこまで自信を持てるのだろう。
「あの『戦神』に、見込みありと言わしめたやつだぞ。実力は担保されとる」
「え、マジ?」
レマグはそれを聞いて、ようやく彼を信用することが出来た。
アルフレッドの旧友であり、魔導戦争を生き残った猛者が言うのだから、間違いはないだろう。
レマグは、昔、調子に乗って彼に挑んだことがあるが、見向きもせず返り討ちにされたことを思い出す。
「じゃあさ、じゃあさ」
「どうした?……まさか、デートは嘘だったなんてことはないよな……ないよな!」
ワナワナと震え始めるアルフレッド。
「そんなことは、言わないよー。いやね、もしそんな彼が、後れを取るような相手がいるとしたら、どんな人なんだろうって」
「なんだ、そんなことか」
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