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最終話 酷えよ死
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転生者である松永秀久も、同じく転生してきた六人のノブナガには叶わなかった。
彼の持つ存在感もほぼ使い切り、万策が尽きた。
キキッ!?
そんな声がして松永が振り返ると、そこには凡人のノブナガの能力によって豊臣秀吉に偽装された一匹の猿がいた。
「サル、か……」
松永は猿の相手をする気などない。
だが、猿は松永の後をついてくる。
「なんだ? 俺を心配しているのか?」
松永が問うと、猿は肯定するように頷く。
彼はそんな猿を見下ろしながら考える。コイツに、自分の残った力を与えればノブナガ達に一矢報いることが……
そんな考えが頭を過ぎるが、松永は首を横に振る。
「いや、やめだ。こんな弱い猿一匹に俺の力を与えたところで、大した力にはならん。
なあサルよ、ついて来れば俺がお前を喰ってしまうやもしれんのだぞ?
それともなんだ? 俺に喰われたいのか?」
そう問いかける松永に猿は首を横に振り、それからまたあの奇妙な鳴き声を上げる。
松永は猿を見下ろしながら、少し悩んだ後、その体をそっと抱え上げる。
すると猿は甘えるように松永に頭をこすりつけた。
「ふんっ……まぁいい……ならばお前を俺の下僕として使ってやる」
松永のその物言いに猿は不満そうな表情をするが、松永は気にすることなく言葉を続けた。
「お前の名前は今日からキノだ。
俺のために働けよ、キノ」
こうして猿……いや、キキッとなくからキノと名付けられた彼は松永の僕となった。
能力を得た猿が松永に付き従うようになり、一ヶ月が経過した頃。
ノブナガは自分が支配する領土内において、とある異変に気がついた。
「あ? なんでここに猿がいるんや?」
豪商ことダダ・ノブナガの声に振り返る二匹の猿。
それは凡人信長の「秀吉に偽造した」猿ではなかった。
「おい、そこの二匹」
「貴方がたは、どこから来たの? 」
「ここで何をしてるのかな??」
暗殺レダ、娼婦オードリー、魔女オリヴィアの三人のノブナガもそう声をかける。
「いやいや皆さん、猿に話しかけても返事をする訳が……」
賢者エッダがそう皆に言うと。
『俺達は松永様の僕だ』
猿の一人がそう答える。
「シャベッタアアア!?」
悲鳴に似た声をあげる賢者。
「何故、あのク○放火野郎の下僕が私達の領土にいる?」
苛立ちを込め、汚い言葉でそう言う暗殺レダだったが、次の瞬間には笑顔になっていた。
「まぁいい……貴重なタンパク源、喰ってしまおう」
「た、食べるのレダちゃん?」
魔女オリヴィアがドン引きの表情を浮かべる。
「食うかどうかは置いとくとしても、松永の僕やったら捕縛は必要やろなあ」
豪商が言い、二匹の猿を捕まえようとするノブナガ達だったが、次の瞬間。
ポンッ!
と爆発音がして、猿達の数が四つに増えた。
「なんなんですか? あなた方」
驚きながらそう問いかける賢者に、別の猿が言う。
『これが、松永様の下僕になって手に入れた裏存在感だ』
「「「「「が、がなつーま!?」」」」」
『このガナツーマで、我は幾らでも増やすことが出来る。
サイズは少々小さくなってしまうがな』
言われてみれば四匹の猿は、最初に登場した時の半分くらいのサイズになっていた。
『しかし量は質を凌駕する!
仮にもう一段階増やせば8体だ』
何と恐ろしい、いや酷い能力だろうか。五人のノブナガは呆れながらも恐怖したが。
「ふーん、使っちゃうんだ裏存在感」
と、今まで黙っていた凡人ノブナガが口を開く。
「じゃあコッチも使っちゃおうかな、裏存在感」
『は?今何と!?』
驚く猿の体が8体、16体と増えていく。そこから200体を超えるのは加速度的に一瞬、そのサイズはみるみる小さくなっていく。
『なななな何じゃこれは!?』
「僕の裏存在感、
『無責任な暴走』だよ。
本人の意思に関係なく相手の能力を発動させて、大概は碌なことにならない」
驚く猿達に、凡人はあっさりと言ってのける。
そうこうしている間にも猿はどんどん増えていき、一体が豆粒程の大きさになっていた。
『酷え!酷えよお前……いやご主人様。
止め、止めて下さいお願いだから』
「無理だね」
猿達の懇願に、凡人の非情な宣告。
「一度発動したら僕にも止められないし、どうなるか分からない。
まあ微生物レベルまで小さくなったら止まるんじゃない?その前に消滅するか」
『そ、そんn』
果たして凡人の言う通り、その総数が10万を超えた時点で、猿達が煙のように消え失せた。
「一件落着。
さ、帰って寝るかな」
そう言ってその場を去って行く凡人を、味方で良かった、と他のノブナガ達は確信したのだった。
(完)
彼の持つ存在感もほぼ使い切り、万策が尽きた。
キキッ!?
そんな声がして松永が振り返ると、そこには凡人のノブナガの能力によって豊臣秀吉に偽装された一匹の猿がいた。
「サル、か……」
松永は猿の相手をする気などない。
だが、猿は松永の後をついてくる。
「なんだ? 俺を心配しているのか?」
松永が問うと、猿は肯定するように頷く。
彼はそんな猿を見下ろしながら考える。コイツに、自分の残った力を与えればノブナガ達に一矢報いることが……
そんな考えが頭を過ぎるが、松永は首を横に振る。
「いや、やめだ。こんな弱い猿一匹に俺の力を与えたところで、大した力にはならん。
なあサルよ、ついて来れば俺がお前を喰ってしまうやもしれんのだぞ?
それともなんだ? 俺に喰われたいのか?」
そう問いかける松永に猿は首を横に振り、それからまたあの奇妙な鳴き声を上げる。
松永は猿を見下ろしながら、少し悩んだ後、その体をそっと抱え上げる。
すると猿は甘えるように松永に頭をこすりつけた。
「ふんっ……まぁいい……ならばお前を俺の下僕として使ってやる」
松永のその物言いに猿は不満そうな表情をするが、松永は気にすることなく言葉を続けた。
「お前の名前は今日からキノだ。
俺のために働けよ、キノ」
こうして猿……いや、キキッとなくからキノと名付けられた彼は松永の僕となった。
能力を得た猿が松永に付き従うようになり、一ヶ月が経過した頃。
ノブナガは自分が支配する領土内において、とある異変に気がついた。
「あ? なんでここに猿がいるんや?」
豪商ことダダ・ノブナガの声に振り返る二匹の猿。
それは凡人信長の「秀吉に偽造した」猿ではなかった。
「おい、そこの二匹」
「貴方がたは、どこから来たの? 」
「ここで何をしてるのかな??」
暗殺レダ、娼婦オードリー、魔女オリヴィアの三人のノブナガもそう声をかける。
「いやいや皆さん、猿に話しかけても返事をする訳が……」
賢者エッダがそう皆に言うと。
『俺達は松永様の僕だ』
猿の一人がそう答える。
「シャベッタアアア!?」
悲鳴に似た声をあげる賢者。
「何故、あのク○放火野郎の下僕が私達の領土にいる?」
苛立ちを込め、汚い言葉でそう言う暗殺レダだったが、次の瞬間には笑顔になっていた。
「まぁいい……貴重なタンパク源、喰ってしまおう」
「た、食べるのレダちゃん?」
魔女オリヴィアがドン引きの表情を浮かべる。
「食うかどうかは置いとくとしても、松永の僕やったら捕縛は必要やろなあ」
豪商が言い、二匹の猿を捕まえようとするノブナガ達だったが、次の瞬間。
ポンッ!
と爆発音がして、猿達の数が四つに増えた。
「なんなんですか? あなた方」
驚きながらそう問いかける賢者に、別の猿が言う。
『これが、松永様の下僕になって手に入れた裏存在感だ』
「「「「「が、がなつーま!?」」」」」
『このガナツーマで、我は幾らでも増やすことが出来る。
サイズは少々小さくなってしまうがな』
言われてみれば四匹の猿は、最初に登場した時の半分くらいのサイズになっていた。
『しかし量は質を凌駕する!
仮にもう一段階増やせば8体だ』
何と恐ろしい、いや酷い能力だろうか。五人のノブナガは呆れながらも恐怖したが。
「ふーん、使っちゃうんだ裏存在感」
と、今まで黙っていた凡人ノブナガが口を開く。
「じゃあコッチも使っちゃおうかな、裏存在感」
『は?今何と!?』
驚く猿の体が8体、16体と増えていく。そこから200体を超えるのは加速度的に一瞬、そのサイズはみるみる小さくなっていく。
『なななな何じゃこれは!?』
「僕の裏存在感、
『無責任な暴走』だよ。
本人の意思に関係なく相手の能力を発動させて、大概は碌なことにならない」
驚く猿達に、凡人はあっさりと言ってのける。
そうこうしている間にも猿はどんどん増えていき、一体が豆粒程の大きさになっていた。
『酷え!酷えよお前……いやご主人様。
止め、止めて下さいお願いだから』
「無理だね」
猿達の懇願に、凡人の非情な宣告。
「一度発動したら僕にも止められないし、どうなるか分からない。
まあ微生物レベルまで小さくなったら止まるんじゃない?その前に消滅するか」
『そ、そんn』
果たして凡人の言う通り、その総数が10万を超えた時点で、猿達が煙のように消え失せた。
「一件落着。
さ、帰って寝るかな」
そう言ってその場を去って行く凡人を、味方で良かった、と他のノブナガ達は確信したのだった。
(完)
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