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「よう、おかえり。相変わらず美人だな、ローラ」

談話室につくと、暖炉の近くにあるソファーに腰かけ、お父様は手を上げた。

その隣で、お母様はにこにこ笑っている。

「ただいま戻りました。お父様、お母様」

私はしずしずと言って、腰をかがめてお辞儀をした。

ああ……苦しい。そろそろドレス脱ぎたいわ~。

「ユリウスもご苦労だったな。ローラに付き添ってくれてありがとう」

「問題ありません。主治医としての務めを果たしたまでです」

ユリウスは少し距離を置いた壁際に立ち、控えている。

「ローラ様はお疲れのご様子ですので、本日はゆっくりとお休みいただくのがよろしいかと思います」

「まあ、そりゃそうだわな。婚約破棄になったと思ったら、流産の責任押しつけられて、しかも急に王子に呼び出されたわけだしな」

はっはっはと豪快に笑うお父様を、「レオ様」とお母様がたしなめる。

「悪い。無神経だったな。許してくれ、ローラ」

「大丈夫です。お父様」

と答えながら、私は不思議な既視感を覚えていた。

そっか。お父様とナサニエル殿下って、ちょっと似てるかも。

こう、器が大きくて鷹揚な感じとか、ちょっとやそっとでは揺るがない自信とか。

国を背負う王子と、領地を治める公爵。責任ある地位にいる者同士、通じるものがあるのかもしれない。

「俺も本来なら、明日でいいと思ってたんだがな。どうも動きがありそうなんで、今度は先手を打つことにした」

「先手……?」

「10日後、ナイト家のアレックスとアンナが正式に結婚するらしい」

その言葉に、胸がずきりと痛んだ。

あれ……おかしいな。もう、完全に吹っ切れたと思ってたのに。

「お腹に子供がいなくても、結婚するということなのですね?」

お母様はずばりと尋ね、お父様は冷静に頷いた。

「そういうことらしいな。アレックスからアンナへの愛が本物だったのか、引っ込みがつかなくなったのかは知らないが」

流産の話を聞いたとき、心のどこかで、これで2人は結婚をやめるって思ってたのかもしれない。

人の不幸を願うなんて……したくないのに。

「それでだ。アレックスとアンナは、あろうことかローラ、お前を結婚式に招待するつもりらしい」

「何ですって?」

お母様は凍りつくような声で言った。

「まだ招待状は届いていないが、影からの情報で分かった。俺としては、これ以上、クソ不愉快な茶番に巻き込まれるのはごめんだ。ましてや、俺のかわいいローラを巻き込むなど論外だ。
そこで、まずはナイト家に正式な抗議を申し入れて、今後一切の交流を絶つ。
その上で、一度ロベルトとアンナを呼び出して、非公式の食事会を行い、話を聞く機会を設ける。
……場合によっては、ロベルトとも絶縁することになるかもな」

お父様は切なく目を細めた。
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