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帰りの馬車の中でも、私はぐったりしてほとんど無言だった。

ユリウスも、何かをじっと考え込むようにしている。

「……あ、そうだ。イクスのこと、頼もうと思ってたのに」

屋敷に帰りつき、ユリウスの手をとって馬車を降りるところで、ようやく私は思い出した。

「イクス様がどうされたんですか?」

「いや……その……あのね。イクスがナイト家を出て、門兵になるために頑張ってるから、そのことだけでも殿下のお耳に入れておこうかな~って」

ユリウスはやれやれと首を振った。

「他の方のことを気にしている場合ですか。ご自分がこんなときに」

「うん、そう言うと思ったわ……」

我ながらおせっかいだなと思うけど、やっぱり頑張ってる人や困ってる人は応援したいもの。

「イクス様は、ご自分で頑張りたいようにお見受けしましたよ」

「分かってる。あんまり世話を焼くのは、本人のためにならないっていうんでしょ?」

「はい。それに、同じ志を抱いていれば、たとえ離れたとしても、いつか再び道は重なりますよ」

私はユリウスの瞳を見た。王子の瞳がエメラルドなら、ユリウスのは少し青みがかった翡翠色だ。

私も瞳は緑だけど、さらに明るくて黄緑色に近い、ペリドットグリーンだ。

「……何ですか?」

まじまじ見ていると、ユリウスは怪訝そうに言った。

「ううん。素敵な考え方だなぁと思って」

前世では、人と人を結ぶ見えない糸のことを『ご縁』と呼んだ。

この世界――テセオニア王国でも、そんなふうな考え方があるのは嬉しい。

「それより、王子からのお申し出はどうするんですか」

私が答える前に、「お帰りなさいませ」とクロードが恭しく出迎えに現れた。

「ローラ様。お疲れのところ恐れ入りますが、旦那様と奥様が談話室にてお待ちです」

私とユリウスは目を見交わせた。

―ーさすがお父様、話が早いわ。
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