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「アレックス!!」

クレア様が悲鳴を上げ、アレックスは信じられないといったように頬を押さえた。

「今の発言は取り消しなさい、アレックス。ユリウスはクイーンズ家の大事な主治医です。ユリウスへの侮辱は、我がクイーンズ家への侮辱と受け取りますよ」

「……へ、へっ!クイーンズ家が何ぼのもんじゃい!!俺は何も悪いことはしてねえ!悪いのはローラ、お前だ!俺様の顔を殴りやがって」

完全に、出会ったころの6歳児の状態に戻っている。

良識だけでなく、知能までどこかに置いてきてしまったのだろうか。

「俺は慰謝料を請求する。お前と、お前の婚約者のユリウスにだ!!」

「……はあ。仕方ないですね……」

この手は使いたくはなかったんだけど、事ここに至ってはやむを得ない。

「ユリウス。あれを」

私が手を差し出すと、ユリウスは「かしこまりました」と言って、海色の小箱を差し出した。

――そう、ナサニエル殿下にもらったイヤリングだ。

「これを見なさい、アレックス。そうすれば、わたくしの発言が嘘ではないことが、馬鹿なあなたにも分かるでしょう」

さらっと馬鹿呼ばわりしたが、それに気づかないぐらい、アレックスは目の前のイヤリングに衝撃を受けていた。

美しく精緻をこらしたデザインと本物の宝石、おそろしく価値のあるアクセサリーであることは、目が肥えているため一目瞭然である。

裏返して、そこに彫られた文字を見て、アレックスは「ひっ」とイヤリングを取り落とし、腰を抜かしてその場に尻もちをついた。

「一体どうしたのです、アレックス」

「大丈夫か」

クレアとロベルト叔父様、それにアンナも近づいてきてイヤリングに触れる。

そして、感電したかのように硬直し、全員が言葉を失った。

「N・K・テセオニア……」

しばらくして、裏返った声でロベルト叔父様はようやく口にした。

「アレックス。わたくしの婚約者はユリウスではありません。お分かりいただけましたか?」

まあ厳密には、ナサニエル殿下でもないんだけどね。そこは、ほら、物は言いようってやつで。

アレックスは生気を抜かれたような顔で、こくこく頷く。

「アンナへの見舞金、あなたへの慰謝料、それらを本当にわたくしたちに請求されますか?」

今度は、水に濡れた犬のような勢いで、ぶんぶんと激しく首を横に振る。

「では、わたくしとユリウスを侮辱する発言を撤回されますね?」

「はい……。申し訳……ございませんでした……」

その場に膝をついて頭を下げる。別に土下座しろとは言っていないんだけど、それに近い体勢になった。

「ローラ。いや、ローラ様。今回のこと、殿下はどこまで……?」

私のドレスの裾にすがりつくようにして、ロベルト叔父様は必死の形相で言う。

「殿下は全てをご存知です。クイーンズ家がナイト家と交流を断つことも」

「そんな……そんなことって……」

打ちひしがれたようにして、クレア様はぶつぶつと何事か呟いている。

さっきまでの自信満々な態度は消えてなくなり、十歳以上年をとったように見えた。

呆然としている面々を置き去りに、私とユリウスは晩餐室を出た。
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