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「お兄様は無事かしら……」
ばくばくしていた心臓が次第に収まっていく音を聞きながら、私は言った。
「公爵様と奥様が行かれているのですから、大丈夫です。きっとご無事ですよ」
ユリウスは優しく言った。
「本当にひどい夜だったわ。私が参加した晩餐会の中じゃ最悪ね」
笑おうとしたけれど、声がかすれて変な調子になった。
アレックスの悪意に満ちた目や、クレア様の高飛車な笑い声。
黙りこくっているアンナの不気味さや、ロベルト叔父様の卑劣な裏切り。
もうたくさんってくらい、悪意と憎しみのフルコースだった。
「これから、またあることないこと言いふらされるんだろうな~。ナサニエル殿下も悪者にされちゃうかも」
「そんなことにはならないと思いますよ」
ユリウスは励ますように言った。
「アンナ嬢の流産がどうとか、ナイト家の結婚がどうとかは、10日もすればみんな忘れることです。そんな実態のない噂よりも、ナイト伯爵となったアレックス様の領政における資質が問われると思います。
どなたが本物で、どなたの言っていることが真実かは、結果を見れば明らかです」
「そうかなぁ……」
私が何やかんや言われるのはもはや慣れたけど、王子に迷惑かけたらどうしよう。
不安に思っていると、ユリウスの手が唇に触れた。
「!?」
どきっとして、思わず目を開けてしまう。
見下ろしてくるユリウスと目が合う。深い翡翠色の瞳。
その指が私の唇をなぞり――そして、上唇と下唇を、むにゅっとつまんだ。
「むぅ!」
「ぶはっ。変な顔」
素の顔でユリウスが笑い転げている。一瞬ドキドキした私の気持ちを返せ。
「人のこと、おもちゃにして遊ぶのやめてくれます……?」
「はは、これは大変失礼いたしました」
丁寧な口調が余計に癪に障る。これが慇懃無礼ってやつね。
「……テセオニアは王家と貴族の力が拮抗しているとはいえ、貴族から王家への信望はいまだに強い。
ナイト家はこれから、あからさまにあなたに不利益な行動をとることはできないでしょう。
王家の婚約者をぞんざいに扱ったと知られれば、完全に貴族社会から孤立してしまう。信頼を失い、各領国との通商や協力関係も成り立たなくなる。
……ナイト家は、もうあなたに手は出せませんよ」
ばくばくしていた心臓が次第に収まっていく音を聞きながら、私は言った。
「公爵様と奥様が行かれているのですから、大丈夫です。きっとご無事ですよ」
ユリウスは優しく言った。
「本当にひどい夜だったわ。私が参加した晩餐会の中じゃ最悪ね」
笑おうとしたけれど、声がかすれて変な調子になった。
アレックスの悪意に満ちた目や、クレア様の高飛車な笑い声。
黙りこくっているアンナの不気味さや、ロベルト叔父様の卑劣な裏切り。
もうたくさんってくらい、悪意と憎しみのフルコースだった。
「これから、またあることないこと言いふらされるんだろうな~。ナサニエル殿下も悪者にされちゃうかも」
「そんなことにはならないと思いますよ」
ユリウスは励ますように言った。
「アンナ嬢の流産がどうとか、ナイト家の結婚がどうとかは、10日もすればみんな忘れることです。そんな実態のない噂よりも、ナイト伯爵となったアレックス様の領政における資質が問われると思います。
どなたが本物で、どなたの言っていることが真実かは、結果を見れば明らかです」
「そうかなぁ……」
私が何やかんや言われるのはもはや慣れたけど、王子に迷惑かけたらどうしよう。
不安に思っていると、ユリウスの手が唇に触れた。
「!?」
どきっとして、思わず目を開けてしまう。
見下ろしてくるユリウスと目が合う。深い翡翠色の瞳。
その指が私の唇をなぞり――そして、上唇と下唇を、むにゅっとつまんだ。
「むぅ!」
「ぶはっ。変な顔」
素の顔でユリウスが笑い転げている。一瞬ドキドキした私の気持ちを返せ。
「人のこと、おもちゃにして遊ぶのやめてくれます……?」
「はは、これは大変失礼いたしました」
丁寧な口調が余計に癪に障る。これが慇懃無礼ってやつね。
「……テセオニアは王家と貴族の力が拮抗しているとはいえ、貴族から王家への信望はいまだに強い。
ナイト家はこれから、あからさまにあなたに不利益な行動をとることはできないでしょう。
王家の婚約者をぞんざいに扱ったと知られれば、完全に貴族社会から孤立してしまう。信頼を失い、各領国との通商や協力関係も成り立たなくなる。
……ナイト家は、もうあなたに手は出せませんよ」
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