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「ローラ様。今の方は、どなたでいらっしゃいますか……?」

遠慮がちに尋ねてきたリックに、にっこりと笑う。

「あら。仮面の紳士淑女の素性は詮索しないのが、今宵のルールだったのではなくて?」

気取った言い回しをしている自分がおかしくて、思わず吹き出した。

リックも「ははは」と無邪気な笑い声を上げる。

「そうでしたね、すみません。あまりにも絵になるお2人だったので、つい気になってしまいました」

褒め言葉には他意がなく、心から言ってくれているのが伝わって、じんと嬉しさが込み上げる。

「改めて、今回のダンスパーティーにお力添えいただき、本当にありがとうございました」

リックは言って、礼儀正しいお辞儀をした。

「ううん。私のほうこそ、いろいろと口を出してごめんなさいね。でも、リックのおかげで、憂鬱だったパーティーが楽しみに思えるようになったのよ。本当にありがとう」

「ローラ様でも、そんなふうに思われることがあるんですね」

リックは意外そうに言った。

「ほら、だって私、今パートナーがいないから」

「俺もいないけど、正直いなくてよかったなって思いますよ。身軽ですもん」

頭の後ろに手を回して、リックは会場をぐるりと見渡した。

目がくらみそうにまばゆいクリスタルのシャンデリア、純白のテーブルクロスに飾られたおびただしい数のバラの花。

着飾って微笑み、手をとって踊る少年少女たち。

この世の豊かさと幸せを凝縮したような光景だ。

「みんなも心のどこかでは、窮屈だって感じてるんじゃないかな。生き方を型にはめられることを。
……俺たち貴族は生まれつき、限られた選択肢しか用意されていないから」

深い眼差しで述べるリックに、今度は私が意外に思って目を丸くした。

「イクスのことがあって、俺、反省したんです。今まで何も考えずに生きてたなって。俺がただ遊んで暮らしてる間に、あいつはいろんなことを考えて、覚悟決めて道を選んだんだなって」

「……うん。私もそう思う」

100%リックの言葉に同意だった。

「だから、俺もちょっとだけ、何かを変えたくなってたのかもしれません。王立学院のダンスパーティーなんて、小さなことかもしれないけど」

「そんなことないよ。私も、うまく言えないけど……貴族とか平民とか関係なく、誰もが望む生き方ができればいいなって思う。そのために何ができるのか考えてみたい」

自分で口に出して、新たな望みに気がついた。

イクスやマリーやリックと話す中で芽生えた気持ちが、言葉にすることで明確になったみたい。

まだ、そのために何ができるかは分からないけれど――そこは、これからゆっくり考えればいい。

そう思うと、わくわくして楽しい気分になってきた。

「あ、あの、ローラ様……」
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