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いろいろあった仮面舞踏会が無事に終わり、テセオニア王立学院は夏休みに入った。

宿題も出るけど、私たちは最終学年なので、あとは卒業論文ぐらいだ。

秋から春にかけては学校に通うのも自由で、大学みたいにカリキュラムを選んで受けるようになっている。

私は以前ユリウスと話していた、この国の医療体制の強化について調べて、論文にまとめようかなと思っていた。

前にも言ったけど、テセオニアは貴族の力が強いから、領国ごとに独立している状態に近い。

だから、対立やいざこざがあったり、場合によっては血の流れる争いになることもある。

そんなときに、お抱えの医師をどれだけ持っているか持っていないかで、軍人や市民の方々の命運が決まってしまうのは、やっぱりよくないと思う。

一番いいのは、領国同士いがみあわないことだけど――私一人の力では難しい。

何かできることはないかな……?

「失礼します」

書き物机で執筆しているところに、ユリウスが何かを持ってきた。

見ると、グラスにミントの葉を浮かべたハーブティーだ。

「執筆お疲れさまです。目の疲れに効くので、よろしければどうぞ」

「ありがとう」

一口飲むと、すーっと爽やかな清涼感に、ちゃんとシロップの甘味もあっておいしかった。

「熱心に取り組まれていますね」

感心したようにユリウスは言った。

「うん。イクスやマリーと話して思ったの。私も自分の道を決めて打ち込みたいなって」

「公爵様も奥方様も、応援しておられましたよ。知恵熱を出さないようにとのことです」

「……はあ。いつまでたっても子ども扱いなんだから」

まあ、二人とも無事に南部から戻ってきたんだから、それでいっか。

「卒業後の進路はどうなさるのですか?」

「それなんだよね~。できれば大学とか進みたいんだけど、ちょっと方向性が違うっていうか」

「大学ですか」

ユリウスは目を丸くした。

テセオニア王国でいう大学は、私の前世の大学とは意味合いが違う。

大学に行くのはほとんど男性で、彼らは政治や経済や法律について幅広く学び、王宮や各領国の政庁(政治をするところ)に入って、政務官になるのだ。

つまり、『大学=政務官を目指す人のための学校』なのだ。

「ローラ様が政務官にご興味があるとは知りませんでした」

「政務官に興味はないんだけど……まだやりたいことが固まってないって感じかな」

グラスの中でくるくる回るミントの葉を見つめて、私は言った。
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