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私たちは、殺し合いを、する。――『バトル・ロワイアル』高見広春

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デスゲームの元祖であり、金字塔であり、最大の問題作。

R15で映画が公開された際は、社会現象にもなり、空前の大ブームが巻き起こった。

ただ、バトル・ロワイアルは文学作品としても最高級の作品である。

ただ人が死んでいくだけの作品であれば、新奇ではあるものの、ここまでのメガヒットは記録しなかっただろう。

バトル・ロワイアルには美しい日本語表現があり、文化があり、ロマンがあり、哲学がある。

極限の殺し合いを描いていながら、逆に私たちに『生きろ』と語りかけ、生きるための重要な示唆を与えてくれる、矛盾に満ちた魅力的な物語だ。

◇あらすじ
西暦1997年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。
城岩中学3年B組の七原秋也ら四十二人は、修学旅行バスごと無人の島へと拉致され、政府主催の殺人実験を強制される。
生還できるのはたった一人。そのためにはただクラスメイト全員を殺害するのみ――。
現代日本を震撼させたジェットコースター・デスゲーム・ノベル、ここに開幕!

中学のころ、退屈で退屈でたまらなくて、よく『ここに銃持った殺人鬼が入ってきたら、どうなるだろう』なんて不謹慎な想像したりしませんでしたか?

それが現実になったりするのが世の中だから怖いけど、でも大抵は、それぐらい学生生活はつまらない。

授業は退屈だし、クラスメイトの顔も見飽きてるし、ただ授業、テスト、クラブ、バイト――と淡々と流れていく。

そんな『みんなが一度は考えたことがある妄想』に根拠と理論と確固たる世界観を与え、めちゃくちゃリアリティのある物語にしたものがバトル・ロワイアルだ。

正直バトロワを読んで、『うちのクラスでバトロワやったらどうなる?』を想像しなかった人はいないと思う。

絶対想像する。それはつまり、この物語が、それぐらい現実感のある物語だからだ。

こんな荒唐無稽な設定に、大東亜共和国の国家の仕組みやディストピア的要素を加えて、圧倒的な描写で説得力のある世界にしているのは本当にすごい。

普通だったら、『こんなのあり得ないじゃーん』となって醒めてしまうところを、『もしかしたら、あり得るかもしれない』と思わせられる。物語にぐいぐい惹き込まれる。

そして、七原秋也たちは、まさに、自分や自分のクラスメイトそのものだ。

キャラクター設定も一人一人、すごく細かい。生い立ちから性格、趣味嗜好、戦闘力まで、綿密に設定されている。

そして、彼らが繰り広げる、無人島での緊迫した密室劇と心理戦。

中学生とは思えない戦略を駆使したり、愛し合ったり騙し合ったり、時にはあっという間に死んでしまったり。

死を前にした苛酷でシビアなドラマは、息もつかせぬ密度で肉薄してくる。

そして、そのドラマには、常に『人を信じること』というテーマが通奏低音として流れている。

極限状況の中で、誰かを、自分自身を信じることの大切さと難しさ。

人は際の部分で本性が現れるというけれど、まさにそのとおり。

いざ、この状況に置かれたら、誰がどんな行動をとるか分からない。

いつもは親切な人間が、容赦なく人を殺すかもしれない。

自分さえも、普段の自分とは全く違う行動をとるかもしれない。

さあ、あなたはどうする?と、物語は全編を通じてずっと、私たちに問いかけてくる。

そして、ちりばめられたユーモアのある会話や、医療・武器・政治などの広範な知識、アメリカ文化への憧憬なども欠かせない要素だ。

私は洋楽に詳しくないけれど、詳しい方はさらに楽しめると思う。

個人的には、一番好きなのは内海幸枝うつみ・ゆきえ、委員長だ。

主人公の秋也も認めた『いい女』――素敵な生き方は、間違いなく私の心のヒロインである。

文字どおり命をかけて戦った彼らの青春に、心からの敬意と感謝を捧げたい。

◇好きな一文
「そうしろよ、二人とも。なりたいものになれ。自分の善意に従って、せいいっぱいやれ」

◇こんな方におすすめ
生きているのがつまらない方
退屈で仕方ない方
学校がお嫌いな方
デスゲーム・サバイバルと聞いて、ぐっとくる方
洋楽やアメリカ文化がお好きな方
群像劇がお好きな方
心理戦やサスペンスがお好きな方
ホラー映画は怖くて見れないけど、怖い話はお好きな方
明日を生き抜く力が欲しい方
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