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「マクベス」と共に、青春時代に戻ったような熱い時間を過ごした――ドラマ『コントが始まる』金子茂樹

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人生は壮大なコントだ、なんて言葉を、どこかで聞いたことがある。

傍から見れば喜劇でも、渦中にいる人間にとっては必死で、一生懸命で、苦しくて、痛々しい。

若いときが一番幸せだなんて、誰が決めたんだろう。

青春時代は高校生や大学生だけの特権だなんて、いつ決まったんだろう。

このお話は、二十代後半の若者たちの、切ないほどのリアルを描いた青春群像劇である。

◇あらすじ
時計が10時を刻むと、このドラマは毎話、1本の『ショートコント』から幕を開ける。
本日夢を諦め、解散を決意した『コント師』の三人の男たち。
数年勤めた一流会社をドロップアウトし、抜け殻のようになった姉。
その姉の世話を言い訳に、目標もなく夜の街で働く妹。
20代後半。誰もが指さす『大敗』のド渦中にいる5人。
――だがそれは煌めく未来への大いなる『前フリ』なのかもしれない?!

このドラマ、リアルタイムでは視聴していない。

というか、あまりテレビを見ないので、存在を知らなかった。

しばらく経った後に存在を知って、Huluに加入して全話一気見した。

このためだけに1ヶ月Huluに加入してでも、『コントが始まる』を見る価値はあると思う。

(決してHuluの回し者ではありません、そして今は解約しました)

『若者が夢を叶える話』は巷に溢れている。

『夢破れた若者が立ち直る話』や『夢を叶えた・叶えなかった人の、その後』が描かれるのもよくある。

でも、『ちゃんと夢を諦めて、けりをつける過程』を、現在進行形でここまで丁寧に描いた作品は、あまりないんじゃないだろうか。

そう、これは終わりのための物語なのだ。

このドラマには奇跡は存在しないので(コントの中には奇跡の水が出てくるけど)、登場人物たちがいきなり何もかもうまくいったり、大きな成功を手にするようなことはない。

宙ぶらりんな状態の彼らは、自分の心と向き合い、現実と折り合いをつけ、迷ったり悩んだりしながら少しずつ進んでいく。

でも、決してみじめな話ではなく、むしろ爽やかで清々しいのだ。

彼らを見ていると、ああよかったなと思える。

人生は勝ち負けではない。

大好きな人たちと過ごし、好きなことに打ち込んだ時間は無駄にはならない。そう教えてくれるからだ。

そして、何かを生み出す人間にとって、『ファン』がどれほど大事か。

たった一人でも見ていてくれる人、応援してくれる人がいれば、明日も頑張ろうと思える。

ファンあってのクリエイターだということも、改めて強く感じさせられる。

いいシーンもたっぷりで、台詞回しも俳優方の演技も素晴らしいのだけれど、あえて上げるなら2つ。

1つは、2話『屋上』で、春斗が瞬太を探しに橋の上まで来るシーン。

春斗のチャリを蹴倒すところから、流れるような動作と台詞の抑揚が素晴らしい。

夜の橋の上にぼんやりと佇む瞬太の、ちょっとこの世から離れたような、不安定な美しさがいい。

すごく身近でリアルな会話で、彼らの中に、ふと自分を見るような気がする。

そしてもう1つは、8話『ファミレス』で、楠木さんがファミレス『メイクシラーズ』に来店するシーン。

主題歌『愛を知るまでは』が流れた瞬間、号泣。ここは何度見ても泣く。

今までマクベスの3人の心情はかなり描かれてたけど、楠木さんの真意がよく分からなかった。

もしかしたら芸能界らしく、利用したり切って捨てるような感じなのかな……と思っていたので、胸を打たれた。

台詞がないのに、1枚の紙だけで感情が伝わってくるのは、見事としか言いようがない。

キャストの方は全員お芝居がめちゃくちゃうまいので、安心して見ていられるのもいいところ。

2021年という、日本中が引きこもりになったような暗い暗い1年に、このドラマが放映されたことは、まさにジャストタイミングだったと思う。

今は光が見えなくても、辛くても、孤独でも、何一つ望みが叶わなくても、これから起こることの『前フリ』。

これは私たちに用意された、終わりの物語なのだ。

一つの悲劇を終わらせ、そして訪れる幸せを、この手で抱きしめるために。

◇好きな一文
あれが、私たちの始まりだったとは、思いませんでした。

◇こんな方におすすめ
青春群像劇と聞いて、ぐっとくる方
疲れておられる方
コント・お笑いがお好きな方
将来に悩んでおられる方
夢を追いかけたい方
引きこもりの方
仕事を辞めたいと思っておられる方
自分って社畜だな~と思う方
クリエイターの方
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