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こんなにも、こんなにも、わたしは淋しい――『ドリームバスター2』宮部みゆき

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『アニメ化してほしい、むしろ何でアニメ化してないんだろう大賞』があるとしたら、ドリームバスターに捧げたい。

宮部みゆきさんは、言わずと知れた国民的大作家だ。

作品のジャンルを超えて活躍されており、ほぼ全てが映画化、ドラマ化、漫画化、アニメ化していると言っても過言ではない。

好きな作品がありすぎて語りきれないけれど、まずは異色の『ドリームバスター』シリーズ、しかも第2巻を選んでみた。

◇あらすじ
あなたの悪夢退治します!
16歳のシェンと師匠のマエストロ2人のドリームバスター(D・B)が、地球とは別の位相に存在する惑星テーラから、地球人の夢の中に潜り込んでいる、懸賞金のかかった凶悪犯を退治しにやってきた。
今度のミッションは、シェンにとってどうも、苦手だった。村野理恵子という極度に他人を恐れる20歳のOLの夢の中だ。彼女は殺人事件の目撃証言をしたことがあり、それ以来、誰かが心の中で話しかけてくるという。
自分が目撃したのは、本当に犯人なのか?落ち込む彼女に苛立ちつつ、シェンは彼女の悪夢に同調してしまう。
というのは、無意識に自分の母親であるローズを、思い出してまうからだ。
実はローズは、D・Bのターゲットでもある凶悪犯の1人だった……。


まず、タイトルが強い。

『ドリームバスター』。かっこよすぎる。惹かれる。中二心をくすぐられる。

そして、ドリームバスターの設定。

舞台が夢の中で、そこで活躍するという発想は馴染みがあるけれど、異世界『テーラ』から意識体となって地球人の夢に逃亡したという発想、それを捕える『ドリームバスター』という職業の設定は徹底的に練られている。

世界観が作り込まれているから、物すごく臨場感がある。

地球人の描写はもちろんのこと、テーラにいるシェンの描写もリアルで、ありありと浮かんでくる。

何なら、自分の夢にも彼らが現れるんじゃないか?とさえ思わされる。

特に、この『ドリームバスター2』は、あくまでもファンタジーでありながら、現代社会における犯罪捜査について克明に描かれており、なおかつ世界観を壊していないという稀有な作品だ。

ちなみに1巻を読まなくても、単独で2を読んでも楽しめると思う。

主人公のシェンは、金髪のイケメンで16歳。生意気でやんちゃで、ちょっと闇を抱えている。

これだけの要素がそろってれば、当然、女の子にモテモテである。

今作のヒロイン・理恵子は対照的に、友達がいたことがない、ちょっと痛めの陰キャである。

理恵子の夢の中にシェンとマエストロ(つなぎを着たおっちゃん・シェンの育ての親)が来ることで物語は始まる。

シェンは理恵子のおどおどした態度が嫌いで、理恵子の『夢』に出てくる、名前のない顔のない人間たちが苦手だった。

どうしてそんな感情を抱くのか、その理由を知ったとき、2人の驚くべき共通点が浮かび上がる。

作中に出てくるパーカーというドリームバスターから語られる、警察の取り調べの手法や、確定バイアスについての話なんかはとても面白いし勉強になる。

シェンの思春期らしい心の動き――恐怖から目を背けたり、反抗したり、イライラしたり――はすごく丁寧に描かれており、共感できる。

そして、シェンの母親である『血まみれローズ』。

作中には一度も出てこないのに、彼女の存在感は抜群で、常に登場人物たちの心に影を落としている。

もちろん、シェン自身の心にも。

シェンは自分の中に存在する『母親』を必死で否定しながらも、そのつながりを完全に断ち切れずにいる。

その結果として、逃亡犯を捕えるドリームバスターという立場に身を置いているところが切ない。

いつか母親と対峙するときがきたら――母親から受け継いだ闇を、マエストロや理恵子や仲間たちからもらった光で打ち払ってほしいと願うばかりだ。

異色のファンタジーと記載したが、この作品、実は未完で、長い間最新刊が出ていない。

アニメ化していないのも、その辺の理由もあるかもしれない。

新作が出るまで気長に待ちつつ、いつか夢の中で彼らに会えるといいなと淡い期待を込めて、眠りにつこう。

◇好きな一文
「強い人間の大きな勇気より、弱い人間の小さな勇気の方が、時には価値を持つことだってある」

◇こんな方におすすめ
金髪イケメンやんちゃ少年と聞いて、ぐっとくる方
ファンタジーがお好きな方
人情の溢れるお話がお好きな方
警察・取り調べ・捜査などに興味のある方
何らかの事件の証言をしてみたい方・したことがある方
ひとりぼっちで寂しい夜を過ごしている方
気が弱くて、自分の気持ちをうまく言えない方
社会人になって日の浅い方
不思議な夢を見ることがある方
毎日眠るのが楽しみになりたい方
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