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春の章
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「お勉強中悪いな、ミスター・プリンセス」
不本意なあだ名にルートが眉根を寄せると、周囲の生徒たちが一斉にお追従笑いをした。
粗暴と野卑を絵に描いたような少年が、いきなり髪をわし掴みにして殴りつけてきた。
避けた拳はこめかみをかすめて眼鏡が吹っ飛び、音を立てて床に落ちる。
拾っている時間はなかった。前に三人、後ろに二人が回り込み、羽交い絞めにしてくる。
折悪く司書教諭はその場におらず、声を上げようにも防音壁が遮断してしまう。
密封された室内に、狩る者と狩られる者の構図ができあがろうとしていた。
リーダー格の少年の名を、確かシルヴァリオといった。
「ちょっと、出来が、いいからって、図に、乗り過ぎなんだよ。人が、喋りかけてやっても、無視しやがって。調子こいてんじゃ、ねえぞ」
一言一言に拳を乗せて、彼はルートのみぞおちを思い切り殴りつけた。
「なあ、死んでくれよ。なあ」
快楽に目を輝かせ、心底楽しそうに彼は笑っていた。周りの連中もにやにやとはやし立てている。
――知ってる。この顔を、俺はよく知っている。
シルヴァリオの振るう暴力は常に自分より弱い者、力のない者を探し求め、その標的目がけてしか振るわれない暴力だった。
反撃されることのない、絶対に安心できる場所にいて始めて、思うさま振るうことのできる暴力。
ぽたりと床に落ちた血の染みを、醒めた目でルートは見つめていた。
「俺が士官学校に入ったのはな、合法的に人を殺すためだよ」
少年はふんぞり返って腕を組んだ。
「一般人がやれば人殺しと言われ、捕縛されることも、軍人なら大手を振ってできる。その上、報酬として金さえ貰えるんだ。こんなにうまい話はない」
勝ち誇ったように高笑いをするシルヴァリオに対して、ルートは全くの無表情だった。
老成した瞳に、冷ややかな軽蔑が凝固してゆく。
不本意なあだ名にルートが眉根を寄せると、周囲の生徒たちが一斉にお追従笑いをした。
粗暴と野卑を絵に描いたような少年が、いきなり髪をわし掴みにして殴りつけてきた。
避けた拳はこめかみをかすめて眼鏡が吹っ飛び、音を立てて床に落ちる。
拾っている時間はなかった。前に三人、後ろに二人が回り込み、羽交い絞めにしてくる。
折悪く司書教諭はその場におらず、声を上げようにも防音壁が遮断してしまう。
密封された室内に、狩る者と狩られる者の構図ができあがろうとしていた。
リーダー格の少年の名を、確かシルヴァリオといった。
「ちょっと、出来が、いいからって、図に、乗り過ぎなんだよ。人が、喋りかけてやっても、無視しやがって。調子こいてんじゃ、ねえぞ」
一言一言に拳を乗せて、彼はルートのみぞおちを思い切り殴りつけた。
「なあ、死んでくれよ。なあ」
快楽に目を輝かせ、心底楽しそうに彼は笑っていた。周りの連中もにやにやとはやし立てている。
――知ってる。この顔を、俺はよく知っている。
シルヴァリオの振るう暴力は常に自分より弱い者、力のない者を探し求め、その標的目がけてしか振るわれない暴力だった。
反撃されることのない、絶対に安心できる場所にいて始めて、思うさま振るうことのできる暴力。
ぽたりと床に落ちた血の染みを、醒めた目でルートは見つめていた。
「俺が士官学校に入ったのはな、合法的に人を殺すためだよ」
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「一般人がやれば人殺しと言われ、捕縛されることも、軍人なら大手を振ってできる。その上、報酬として金さえ貰えるんだ。こんなにうまい話はない」
勝ち誇ったように高笑いをするシルヴァリオに対して、ルートは全くの無表情だった。
老成した瞳に、冷ややかな軽蔑が凝固してゆく。
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