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春の章
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ユリシスが叫ぶとほぼ同時に、ルートの腕が誰かに取り押さえられた。
ルベリエが、ルートの二の腕あたりを掴んで制止している。
その剣先は、フィンの見開いた目の3ミリ手前でぴたりと止まっていた。
「そこまでだ。勝者、ルート・カルバック」
抑揚のない声でルベリエが告げ、ルートは美しい所作で剣を腰のホルダーに納めた。
「フィン。大丈夫かい」
ユリシスが駆け寄っていくと、フィンは純粋な喜色を滲ませて、
「もう一回やろうよ、ルート」
指を一本立ててルートの後を追いかける。
「ねえ、もう一回」
レッドは処置なしと呟いた。
「自分が殺されかけたってわかってんのかね。あのチビは」
腕や足からだらだらと血を流しているのを見て、ユリシスは懸念に顔を曇らせる。
「すぐに手当したほうがいい。医務室へ」
だがフィンは聞こえていないのか、くるくると踊るように回りながらルートのそばを離れない。
雛鳥が親鳥につき従って歩くさまは、見ていて憐れを催す眺めであった。
「ルート。君からも言ってくれ」
ユリシスが声をかけると、ルートは涼しい顔で言った。
「関係ない」
「関係ないことはないだろう。同じ班の仲間じゃないか。それに、君のせいでフィンは大怪我をしたんだぞ」
「だから?」
ユリシスは返す言葉を失ってたじろぐ。
「次の試合を始める。言い忘れていたが、負けた奴は今から島の外周を百周走れ。夕飯は抜きとする」
「はいっ!!!教官」
ルベリエが号令を発し、全員はきびきびと行動を開始する。
文句を言うことや命令にそむくことの無意味さを、この数週間で誰もが熟知していた。
ルベリエが、ルートの二の腕あたりを掴んで制止している。
その剣先は、フィンの見開いた目の3ミリ手前でぴたりと止まっていた。
「そこまでだ。勝者、ルート・カルバック」
抑揚のない声でルベリエが告げ、ルートは美しい所作で剣を腰のホルダーに納めた。
「フィン。大丈夫かい」
ユリシスが駆け寄っていくと、フィンは純粋な喜色を滲ませて、
「もう一回やろうよ、ルート」
指を一本立ててルートの後を追いかける。
「ねえ、もう一回」
レッドは処置なしと呟いた。
「自分が殺されかけたってわかってんのかね。あのチビは」
腕や足からだらだらと血を流しているのを見て、ユリシスは懸念に顔を曇らせる。
「すぐに手当したほうがいい。医務室へ」
だがフィンは聞こえていないのか、くるくると踊るように回りながらルートのそばを離れない。
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「ルート。君からも言ってくれ」
ユリシスが声をかけると、ルートは涼しい顔で言った。
「関係ない」
「関係ないことはないだろう。同じ班の仲間じゃないか。それに、君のせいでフィンは大怪我をしたんだぞ」
「だから?」
ユリシスは返す言葉を失ってたじろぐ。
「次の試合を始める。言い忘れていたが、負けた奴は今から島の外周を百周走れ。夕飯は抜きとする」
「はいっ!!!教官」
ルベリエが号令を発し、全員はきびきびと行動を開始する。
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