護国の鳥

凪子

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春の章

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「ほら、いつまでもめそめそしてると、姫のご機嫌が変わっちまうぞ」

レッドに肩を押して促され、フィンは目の端を拭って「うん」と潤んだ声で返事した。

「どこに行くんだい」

ユリシスが尋ねると、ルートは「決まってるだろう」と食堂を目指した。

「食堂は使えないんだろ?」

「職員たちは使用できる。閉鎖されているわけじゃないのなら、食料庫には食材がある」

「まさか、盗む気かい」

ユリシスがぎょっとした。

「駄目だよ。規則には盗みは禁止だと」

「つくづく杓子定規な奴だな。少しは自分の頭で物を考えたらどうだ」

ルートは鼻に皺を寄せ、ぴしゃりと言った。

――なるほど、そういうことか。

ぴんときたレッドは、驚嘆の思いでルートの後姿を見つめる。

恐らく彼は食堂の職員に、労働力を提供する対価として毎日一定量の食事をもらえるよう交渉するつもりなのだ。

飯盒炊爨訓練と言われれば、反射的に海で魚を釣って焼いたり、森で木の実や動物を獲ることを考える。

だが実際問題、毎日そんなことを続けていたら時間がいくらあっても足りない。

だからこそルートはサバイバルの発想を捨て、最も安全で確実に食料が手に入るやり方を選んだというわけだ。

しかも、これは早い者勝ちだ。

食堂ではおおむね人が足りている。雇ってもらうためには、誰よりも早く交渉を開始することが必須条件となる。

足早に廊下の角を曲がった途端、ルートの肩に何か硬いものがぶつかって跳ね返った。

きゃっという短い声と、何かがばらばらとこぼれる音。地面に広がったのは、むいたばかりの丸芋。

尻もちをついているのは、小鹿を思わせる目をした子供だった。

「気をつけろ」

一喝され、子供は縮み上がって「すみません」とか細い声で謝った。

全体的に華奢な体つきをしている。服装は小ざっぱりとしていて、うなじの上で切り揃えた髪が清々しい。
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