護国の鳥

凪子

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春の章

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「君、食堂で働いてる子?」

膝を屈めてユリシスが物柔らかに尋ねると、子供は慌てて立ち上がった。

「はい」

と答えて、手早く散らばった芋をかき集める。

「お腹すいたなあ……」

フィンは物欲しげに芋をじっと見つめている。

「急いでいるところ、すまなかったね。怪我はないかい?」

ユリシスが手伝おうとすると、子供は激しく首を振って、

「とんでもありません。大丈夫です、拾いますから」

と、焦った様子で籠いっぱいに芋を入れ、それを抱えて走り去ろうとした。

「あ、待って」

ユリシスが肩を掴むと、子供は大きく身をすくめた。目には警戒心と怯えが広がっている。

「驚かせてしまって申し訳ない。実は、僕らも食堂に用があるんだ。マダムを呼んでいただけないだろうか」

「ゴモラさんを……?」

不審な表情で、おずおずと子供は指先をいじくり回している。

一連の様子を観察していたレッドが、そこで動いた。

「なあ、あんた」

子供の顎を指で持ち上げ、自分のほうへ引き寄せる。

至近距離で見つめると、子供は口をあわあわさせ、腕を押し返そうとした。

「……やっぱりだ」

レッドは薄く笑い、首を傾げてからかうように、

「かわいいな、あんた」

ぎくりと子供が身を引こうとしたが、力の差がそれを許さない。

「何であんたみたいな子が、ここにいるのかな?」

子供は両手を思いきり突っ張ってレッドを突き飛ばし、脱兎のごとく逃げ出した。

「ちょっと待って。君!」

ユリシスが呼び止めたが、そのまま子供は廊下の角を曲がって姿を消した。
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