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春の章
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「この、ひょいパク野郎が」
ルートは痛烈になじった。
「あんなガキにも見境なしに迫るのか。見下げ果てた奴」
「何言ってるんだ。そりゃあ確かにレッドは女癖が悪いけど、あの子は男の子だろう」
ユリシスが言い返すが、レッドは去っていった方角を見つめたまま、じっと黙っている。
「違うよ」
声を発したのはフィンだった。
「あれ、女の子だよ」
心得顔で、先ほど拾うふりをして隠し持っていた芋をもぐもぐと頬張っている。
「何で分かる」
ルートに追及され、フィンは首を傾げて「顔?」と疑問形で返した。
「というより、体つきだな」
レッドが頷き、ユリシスは目を丸くして彼のほうを向いた。
「チビの言うとおりだよ。見りゃ分かる。あいつ女だ」
「ね。さっきの子に、もっと食べ物もらおうよ」
フィンは無邪気な声で提案する。
「フィン。僕たちは、ちゃんと正当に働いて報酬を得るべきだ」
ユリシスが正論を説いたが、フィンはきょとんとした顔で、
「でも、もし女の子だってばれたら殺されちゃうんでしょう?だったらきっと、俺たちにいっぱい食べ物くれるはずだよ」
レッドは素直すぎる発想にひやりとした。
――こいつには、良心の呵責ってもんがない。
薄々感じていたことが、ここへ来て明確な形をとる。
女を脅して食料を巻きあげるという考えに、フィンは全く後ろめたさを感じていない。
「どちらにせよ、あいつともう一度話をする必要がある」
ルートは沈着な面差しで告げた。
「食堂から食料を得るというのは当初の目的と矛盾しない。使える材料があるのなら、使うにこしたことはない」
「もしそれで、あの子の身に危険が及ぶことになったらどうするんだ。性別を偽って不法侵入しているとばれたら、最悪あの子は処刑されてしまうんだぞ」
「それならそれで仕方がない――だろ?」
ユリシスの抗弁に、レッドが答えてルートのほうを見やった。
沈黙を肯定と受け取り、ユリシスは断固として首を振る。
「僕は反対だ。自分たちが生き残るためだからといって、何の関係もない子供を巻き込んでいいわけがない」
「救いようのない間抜けだな、お前は」
ルートはありったけの侮辱を込めて罵った。
「生ぬるい温室の中でしか通用しない理屈を振りかざすな、偽善者が」
ユリシスは援護を求めてレッドを見たが、レッドは助け舟を出そうとはしなかった。
「……理由を聞く」
握りしめた拳に静脈が浮く。
ユリシスは低い声で言った。
「とにかく、あの子に会って話をする。食料のこともこれからのことも、全部その後だ」
ルートは痛烈になじった。
「あんなガキにも見境なしに迫るのか。見下げ果てた奴」
「何言ってるんだ。そりゃあ確かにレッドは女癖が悪いけど、あの子は男の子だろう」
ユリシスが言い返すが、レッドは去っていった方角を見つめたまま、じっと黙っている。
「違うよ」
声を発したのはフィンだった。
「あれ、女の子だよ」
心得顔で、先ほど拾うふりをして隠し持っていた芋をもぐもぐと頬張っている。
「何で分かる」
ルートに追及され、フィンは首を傾げて「顔?」と疑問形で返した。
「というより、体つきだな」
レッドが頷き、ユリシスは目を丸くして彼のほうを向いた。
「チビの言うとおりだよ。見りゃ分かる。あいつ女だ」
「ね。さっきの子に、もっと食べ物もらおうよ」
フィンは無邪気な声で提案する。
「フィン。僕たちは、ちゃんと正当に働いて報酬を得るべきだ」
ユリシスが正論を説いたが、フィンはきょとんとした顔で、
「でも、もし女の子だってばれたら殺されちゃうんでしょう?だったらきっと、俺たちにいっぱい食べ物くれるはずだよ」
レッドは素直すぎる発想にひやりとした。
――こいつには、良心の呵責ってもんがない。
薄々感じていたことが、ここへ来て明確な形をとる。
女を脅して食料を巻きあげるという考えに、フィンは全く後ろめたさを感じていない。
「どちらにせよ、あいつともう一度話をする必要がある」
ルートは沈着な面差しで告げた。
「食堂から食料を得るというのは当初の目的と矛盾しない。使える材料があるのなら、使うにこしたことはない」
「もしそれで、あの子の身に危険が及ぶことになったらどうするんだ。性別を偽って不法侵入しているとばれたら、最悪あの子は処刑されてしまうんだぞ」
「それならそれで仕方がない――だろ?」
ユリシスの抗弁に、レッドが答えてルートのほうを見やった。
沈黙を肯定と受け取り、ユリシスは断固として首を振る。
「僕は反対だ。自分たちが生き残るためだからといって、何の関係もない子供を巻き込んでいいわけがない」
「救いようのない間抜けだな、お前は」
ルートはありったけの侮辱を込めて罵った。
「生ぬるい温室の中でしか通用しない理屈を振りかざすな、偽善者が」
ユリシスは援護を求めてレッドを見たが、レッドは助け舟を出そうとはしなかった。
「……理由を聞く」
握りしめた拳に静脈が浮く。
ユリシスは低い声で言った。
「とにかく、あの子に会って話をする。食料のこともこれからのことも、全部その後だ」
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