護国の鳥

凪子

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春の章

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二人を寮へ戻した後、医務室に残って書類をまとめていたラグランジュは、入ってきたルベリエに苦言を呈した。

「体罰も時には必要かもしれないけれど、ほどほどにしておいてくれないかな。ここに来る生徒のほとんどが、君から被害を被ったと言っているよ」

ルベリエは応えず、窓外の闇に目を凝らしている。

医務室はひっそりと静まり返り、棚に所狭しと並べられた薬品やホルマリン漬けの瓶、治療器具といったものが息を詰めてこちらを見つめている。

三つ並んだベッドはどれも空で、室内を照らすのはラグランジュの手元にある小さなランプの灯りだけだった。

「あれが武器庫の鍵だということを、二人は本当に知らないようだったよ。たまたま、あの現場に居合わせただけのようだ」

ルベリエは現場から拾い集めた情報を精査し、繋ぎ合せようと努めていた。

鍵番の二人は、背後から不意打ちで一撃のもと、殴り倒されていた。逃げようとしたり、抵抗した様子はなかった。

つまり相手は少なくとも二人以上いて、計画的に彼らを襲い、武器庫の鍵を盗み出したということだ。

その割に、肝心のその鍵を中庭に落とすというのは、あまりに杜撰と言わざるを得ない。

目的は何だったというのだろうか。

「候補生たちは武器庫の場所を知らないはずだよ。仮にもし分かっていたとしても、あの鍵のうち十五本はフェイクだ。本物を見つけ出して鍵を合わせるまで、どんなに早くても十分はかかる。君が鍵番を見つけてから武器庫に向かうまで、四、五分だったはずだ。そこで会わなかったとすれば、犯人は武器庫まで辿りついていないということになる」

ルベリエは手のひらを握りしめた。

「鍵は念のため取りかえる。鍵番もな」

「そのほうがいいだろうね」

ラグランジュは頷く。

「お前から上に報告してくれ」

すらすらと流麗な筆致で書類を記していた彼の手が、ぴたりと止まった。

「どうして」

と尋ねると、ルベリエは「どうもこうもない」と吐き捨てた。

「俺から報告しようとしても、上申書がサイクロイドを出る前に全部モレルに握り潰される」

「はは、それじゃしょうがないね」

ラグランジュは苦笑した。

「少佐の娘さん、カレッジ受験に失敗して大変みたいだから。奥さんは浪費癖があるし、息子さんはギャンブル好きで、お金に困ってるみたいだよ」

「昇給のためなら、身内の不祥事は揉み消すか。相変わらず腐ってやがる」

苛立ちをあらわにルベリエは呟いた。

「そう手厳しい言い方をするものじゃないよ。我々のん気な独身組と違って、家族を養っていくというのは生半可なことじゃない。家を建てるためにローンも組まなきゃならないし、職業柄、保険料はバカ高いしね」

ラグランジュが諭した。

士官候補生が卒業すると最も地位の低い士官、つまり少尉となるが、そこから中尉、大尉までは年数を積めば大抵の人間が昇進できる。

しかし、その上の佐官になるには、上司の推薦のもと苛酷を極める昇任試験を受けるか、戦場で華々しい戦績を上げることが必須条件のため、上がれる人数はぐっと減る。

ゆえに、大尉と少佐の間には『三十の壁』が存在すると言われている。

三十歳までに佐官になれない場合、定年まで階級が上がらず打ちどめになることがほぼ確定する。

そのため、佐官に上がれなかった大多数の尉官はそこで見切りをつけ、あるいは体力や精神力の限界を感じて、どっと離職する。

尉官たちは少ないパイを奪い合うために、日々しのぎを削って戦っているというわけだった。
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