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【2】紫
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「紫さん」
耳打ちされ、私はにっこり笑って席を立つ。
「そろそろショーのお時間ですので、失礼いたします。ぜひ見ていってくださいな」
『ジェーン・ドウ』では毎日二回、客席の中央にある円形のステージでショーをする。
コントのようなものもあるし、歌を歌うこともあるし、怪談を読み上げたり小芝居をすることもある。
その日のメンバーによって内容が変わるのだけれど、今日はバレエと日舞を組み合わせた踊りがメインのショーだった。
けばけばしい照明が消され、室内は海のような蒼い光に満ちる。
静かな音楽が流れ出し、衣装を身につけた私はステージの上で踊り始めた。
このショーは評判がよくて、客の中には涙を浮かべている人もいる。
私自身も幻想的な曲に合わせて舞い続けていると、別世界に行ったような心地になる。
客は幻を見に来ている。私たちはそれを提供するのが仕事だ。
きらびやかに装い、華やかに笑い、決して本当の姿を悟られてはならない。
本当の私は、男ではなく女にもなりきれない、憐れで不完全な欠陥品。
ゲテモノ食いと怖いもの見たさに人は集まるけれど、仲間に入れてもらえることは永遠になく、男からも女からも見下されるピエロ。
七瀬を見ていると、まぶしかった。うらやましくて妬ましくてたまらなかった。
まともな家ですくすく育ち、愛されて大切にされ、自分の存在価値に何の疑問も持たずにいられる女の子。
あの子はこれからも陽の当たる道を行き、光の中を歩み続ける。
もしかするとこれは、ささやかな復讐なのかもしれない。
決して関わることのない闇、普通なら見ることのない穢れを彼女に見せて、私の人生に巻き込むための。
――でも多分、そんなことは起こらない。
私が何をしようとあの子は決して汚れず、ひたむきに真っすぐに生きていく。
遠からぬ未来、私と七瀬の道は再び分かたれるだろう。その後は恐らく、二度と交わることはない。
何の根拠もないけれど、そう確信していた。
七瀬も瑠依も千代子ちゃんも、いずれ私のもとを去っていく。
そうなったとき、私は、彼女たちを喪う痛みに耐えられるだろうか。
耳打ちされ、私はにっこり笑って席を立つ。
「そろそろショーのお時間ですので、失礼いたします。ぜひ見ていってくださいな」
『ジェーン・ドウ』では毎日二回、客席の中央にある円形のステージでショーをする。
コントのようなものもあるし、歌を歌うこともあるし、怪談を読み上げたり小芝居をすることもある。
その日のメンバーによって内容が変わるのだけれど、今日はバレエと日舞を組み合わせた踊りがメインのショーだった。
けばけばしい照明が消され、室内は海のような蒼い光に満ちる。
静かな音楽が流れ出し、衣装を身につけた私はステージの上で踊り始めた。
このショーは評判がよくて、客の中には涙を浮かべている人もいる。
私自身も幻想的な曲に合わせて舞い続けていると、別世界に行ったような心地になる。
客は幻を見に来ている。私たちはそれを提供するのが仕事だ。
きらびやかに装い、華やかに笑い、決して本当の姿を悟られてはならない。
本当の私は、男ではなく女にもなりきれない、憐れで不完全な欠陥品。
ゲテモノ食いと怖いもの見たさに人は集まるけれど、仲間に入れてもらえることは永遠になく、男からも女からも見下されるピエロ。
七瀬を見ていると、まぶしかった。うらやましくて妬ましくてたまらなかった。
まともな家ですくすく育ち、愛されて大切にされ、自分の存在価値に何の疑問も持たずにいられる女の子。
あの子はこれからも陽の当たる道を行き、光の中を歩み続ける。
もしかするとこれは、ささやかな復讐なのかもしれない。
決して関わることのない闇、普通なら見ることのない穢れを彼女に見せて、私の人生に巻き込むための。
――でも多分、そんなことは起こらない。
私が何をしようとあの子は決して汚れず、ひたむきに真っすぐに生きていく。
遠からぬ未来、私と七瀬の道は再び分かたれるだろう。その後は恐らく、二度と交わることはない。
何の根拠もないけれど、そう確信していた。
七瀬も瑠依も千代子ちゃんも、いずれ私のもとを去っていく。
そうなったとき、私は、彼女たちを喪う痛みに耐えられるだろうか。
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