25 / 25
【4】谷村千代子
25
しおりを挟む
「千代子ちゃんは一番若いけど、一番しっかりしてるから、私は安心してるの」
しみじみと紫さんが言った。
「いつも迷惑をかけてごめんなさいね。おいしいお料理をつくってくれてありがとう。あの子たちに代わってお礼を言うわ」
「いえ、そんな」
私はわたわたと手を振った。
材料費を払ってもらっている上に、紫さんと七瀬さんからはお金も受け取っているのだから、むしろ得なくらいだ。
「七瀬と瑠依を、どうかよろしくね」
深々と頭を下げられ、私は戸惑った。
「何で……そんなこと言うんですか」
だってそんな――別れの前兆のような。
「あなたが来てくれてよかった。どんなことがあっても、千代子ちゃんがいれば大丈夫」
「駄目です、紫さんがいないと。紫さんは私の神様なんだから」
それを聞いて、紫さんは盛大に吹き出した。
「あんた、おかまに夢見すぎよ~」
ふざけたように笑い、私の肩をたたく。
そして真顔になって言った。
「おかまには、心が病んでたり壊れてる奴も多いわ。だから信用しないで。たまに遊びに来て、面白がるぐらいにしておきなさい。深く関わっちゃ駄目」
「そんなことない。紫さんは」
言いかけた私を微笑で遮って、
「おやすみなさい」
こうやって紫さんは私を優しく突き放す。
そして私は、手に入れかけたはずの温もりをつかみそこねて途方に暮れる。
その微笑みは、この世で最も美しい罠だ。
私は珍しい蝶を籠に閉じ込め、愛でていたつもりが、いつしか気づくのだ。
――囚われていたのは、自分のほうだったと。
しみじみと紫さんが言った。
「いつも迷惑をかけてごめんなさいね。おいしいお料理をつくってくれてありがとう。あの子たちに代わってお礼を言うわ」
「いえ、そんな」
私はわたわたと手を振った。
材料費を払ってもらっている上に、紫さんと七瀬さんからはお金も受け取っているのだから、むしろ得なくらいだ。
「七瀬と瑠依を、どうかよろしくね」
深々と頭を下げられ、私は戸惑った。
「何で……そんなこと言うんですか」
だってそんな――別れの前兆のような。
「あなたが来てくれてよかった。どんなことがあっても、千代子ちゃんがいれば大丈夫」
「駄目です、紫さんがいないと。紫さんは私の神様なんだから」
それを聞いて、紫さんは盛大に吹き出した。
「あんた、おかまに夢見すぎよ~」
ふざけたように笑い、私の肩をたたく。
そして真顔になって言った。
「おかまには、心が病んでたり壊れてる奴も多いわ。だから信用しないで。たまに遊びに来て、面白がるぐらいにしておきなさい。深く関わっちゃ駄目」
「そんなことない。紫さんは」
言いかけた私を微笑で遮って、
「おやすみなさい」
こうやって紫さんは私を優しく突き放す。
そして私は、手に入れかけたはずの温もりをつかみそこねて途方に暮れる。
その微笑みは、この世で最も美しい罠だ。
私は珍しい蝶を籠に閉じ込め、愛でていたつもりが、いつしか気づくのだ。
――囚われていたのは、自分のほうだったと。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる