ウェルテルの陰謀 －美少女と美少年(？)に囲まれた俺の運命やいかに？ー

第一章

32

公香はその場にあったグラスの中身を次々と飲み干し、瓶を空にすると、ドスの利いた声で言った。

「――飲ませすぎだろうが」

あまりの迫力に、男子たちが縮みあがるのが遠目で見て分かるぐらいだった。

同級生とはいえ、公香と彼らでは格が違う。

周りもようやく理紗の置かれた状況に気づいたらしく、女子が慌てて理紗を自分たちのほうへ引き取った。

「お水飲む？」

と、グラスに水を用意して差し出す。

何人かが心配そうに理紗を取り囲み、理紗はそのうちの一人に付き添われてトイレへ立った。

公香はそれを見届けると、男子たちを一人ひとり鬼のような顔で睨みつけると、冷然とした声で言った。

「アル中になったら責任取れんのか、馬鹿が。飲み比べがしたいんなら、いつでも私に言ってこい。一人残らず返り討ちにしてやるよ」

真啓は背筋が寒くなった。公香なら本当にやりそうで怖い。

ぐうの音も出ない男子たちを捨て置いて、公香は幹事のところへ行くと、

「帰る」

と言って、千円札を三枚、机に置いた。

そして誰のことも、凍った空気も気にせず帰ってしまった。

それはあまりにも華麗な、最高にかっこいい後姿だった。

この事件が、『北大路公香ファンクラブ』会員の間で長きに渡って語り継がれたことは言うまでもない。

第一回クラコンと呼ばれたこの飲み会は、公香が参加した最初で最後のクラス会であり、いつしかクラスメイトたちの間で『伝説のクラコン』と呼ばれることになる。