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第三章
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「お姉ちゃん!」
最寄駅まで送って行くと、改札の向こうからポニーテールを揺らした里香が走ってきて、公香を見るなり飛びついた。喜色満面である。
「ホントに綺麗」
褒めたたえながら、うっとりと悦に入っている様子は見ていて不気味なくらいだ。
真啓が手持無沙汰にしていると、里香は横眼でじろりと睨み、
「何もしてないでしょうね」
この口うるさい小姑のせいで、真啓は毎日のように公香とのデートを詳細に報告させられている。
付き合っている『フリ』は公認されているものの、キスどころか手をつなぐことさえ禁じられている。
大したシスコンぶりだよ、と真啓は内心呆れながら、
「はいはい。何もしてませんよ」
若干後ろめたい気持ちがないわけではないが――と思っていると、それを直観で見抜いたのか、里香は腰に手を当てて目を皿のようにした。
「本当に?その割には随分にやけてるじゃないの」
「気のせいだって、気のせい」
根拠がないくせにコンピューター並の性能を持つ女の勘に震えあがりながら、真啓は手を振った。
そのやり取りを見守っていた公香が、平然とした顔つきで、
「大丈夫だよ、里香。こいつと私は二人でラブホに行く程度の間柄だからな」
一瞬生まれたエア―スポットに、真啓は自分の血の気が引くのが分かった。
「何ですって?!」
案の定、里香が激昂した。
「うわーっ違うちがう違うから!!!誤解だから誤解!」
慌ててフォローに入ろうにも、時すでに遅し。里香の憤激のボルテージはもはや目盛りを振り切っている。
「有澤さん、あなたって人はヘタレの分際でよくも……この外道!人でなし!」
公香はにやにや笑っている。今度ばかりは本気で殺意が沸いた。
「公香、お前な……!」
「私は事実を言ったまでだ」
「ラブホに行こうって言ったのはお前だろ!」
「連れ込んでおいてお姉ちゃんのせいにするんですか!?もう許せない!!」
「違うって。あのね、これはおとり捜査の一環として……それに、入ってないから!入口まで行ったけど、引き返したからね!つーか話聞いて!」
里香は問答無用とばかりに激しく首を振る。
「嘘つき!じゃあ用もないのにラブホ街をうろつくんですか?最初からそれ目的だったんでしょ。最低!」
ドラマに出てきそうな言い回しに、真啓は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
今笑ったら確実に冥土へ送られる。
「本当に違うって。公香からも言ってくれよ。な?違うから」
公香はごほん、と仰々しい咳ばらいをすると、
「ま、事実としては、ラブホに入ったわけじゃないよな」
里香はほんの少し瞳を緩め、胸を撫で下ろしたように拳を引く。
だが公香は口元を笑ませたまま、
「だが、こないだお前の家に泊まったときは、やらしいことしようとしたけどな」
「ばっ……なっ……!」
真啓はしどろもどろになった。一瞬でも考えなかったと言えば嘘になる。
里香は怒りを通り越したのか、虫けらを見るような目で真啓を見つめている。
焦りが冷や汗の粒になって背中を流れ落ちた。
「いや、その、あれはだな、気の迷いというか魔がさしたというか……」
「この身の程知らずが!!」
里香の容赦ない平手打ちが飛んできて、長い爪が真啓の頬をえぐった。
こらえかねた公香の笑い声が空に吸い込まれてゆく。
痛む頬を押さえながら、久しぶりに公香の笑顔を見たな、と真啓は思った。
最寄駅まで送って行くと、改札の向こうからポニーテールを揺らした里香が走ってきて、公香を見るなり飛びついた。喜色満面である。
「ホントに綺麗」
褒めたたえながら、うっとりと悦に入っている様子は見ていて不気味なくらいだ。
真啓が手持無沙汰にしていると、里香は横眼でじろりと睨み、
「何もしてないでしょうね」
この口うるさい小姑のせいで、真啓は毎日のように公香とのデートを詳細に報告させられている。
付き合っている『フリ』は公認されているものの、キスどころか手をつなぐことさえ禁じられている。
大したシスコンぶりだよ、と真啓は内心呆れながら、
「はいはい。何もしてませんよ」
若干後ろめたい気持ちがないわけではないが――と思っていると、それを直観で見抜いたのか、里香は腰に手を当てて目を皿のようにした。
「本当に?その割には随分にやけてるじゃないの」
「気のせいだって、気のせい」
根拠がないくせにコンピューター並の性能を持つ女の勘に震えあがりながら、真啓は手を振った。
そのやり取りを見守っていた公香が、平然とした顔つきで、
「大丈夫だよ、里香。こいつと私は二人でラブホに行く程度の間柄だからな」
一瞬生まれたエア―スポットに、真啓は自分の血の気が引くのが分かった。
「何ですって?!」
案の定、里香が激昂した。
「うわーっ違うちがう違うから!!!誤解だから誤解!」
慌ててフォローに入ろうにも、時すでに遅し。里香の憤激のボルテージはもはや目盛りを振り切っている。
「有澤さん、あなたって人はヘタレの分際でよくも……この外道!人でなし!」
公香はにやにや笑っている。今度ばかりは本気で殺意が沸いた。
「公香、お前な……!」
「私は事実を言ったまでだ」
「ラブホに行こうって言ったのはお前だろ!」
「連れ込んでおいてお姉ちゃんのせいにするんですか!?もう許せない!!」
「違うって。あのね、これはおとり捜査の一環として……それに、入ってないから!入口まで行ったけど、引き返したからね!つーか話聞いて!」
里香は問答無用とばかりに激しく首を振る。
「嘘つき!じゃあ用もないのにラブホ街をうろつくんですか?最初からそれ目的だったんでしょ。最低!」
ドラマに出てきそうな言い回しに、真啓は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
今笑ったら確実に冥土へ送られる。
「本当に違うって。公香からも言ってくれよ。な?違うから」
公香はごほん、と仰々しい咳ばらいをすると、
「ま、事実としては、ラブホに入ったわけじゃないよな」
里香はほんの少し瞳を緩め、胸を撫で下ろしたように拳を引く。
だが公香は口元を笑ませたまま、
「だが、こないだお前の家に泊まったときは、やらしいことしようとしたけどな」
「ばっ……なっ……!」
真啓はしどろもどろになった。一瞬でも考えなかったと言えば嘘になる。
里香は怒りを通り越したのか、虫けらを見るような目で真啓を見つめている。
焦りが冷や汗の粒になって背中を流れ落ちた。
「いや、その、あれはだな、気の迷いというか魔がさしたというか……」
「この身の程知らずが!!」
里香の容赦ない平手打ちが飛んできて、長い爪が真啓の頬をえぐった。
こらえかねた公香の笑い声が空に吸い込まれてゆく。
痛む頬を押さえながら、久しぶりに公香の笑顔を見たな、と真啓は思った。
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