ウェルテルの陰謀 －美少女と美少年(？)に囲まれた俺の運命やいかに？ー

第三章

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その日の夜、風呂上がりにビールでも飲もうかと冷蔵庫を探っていると、電話がかかってきた。

パンツ一丁でスマホを見ると、知らない電話番号が踊っていた。

「……もしもし」

「あ、あああの、私です」

言われなくとも分かった。

「三上です」

三上楓の父親、三上輝男だ。ここまで人をいらつかせる声も珍しい。真啓は息をついた。

電話番号は教えたが、アドレス帳に登録していなかったのだ。この件が済めば、金輪際連絡を取る気もなかった。

「えー」とか「うー」とか言葉を選んでいる三上輝男に、真啓は機先を制した。

挨拶も世間話もさせるつもりはない。

「何か分かりましたか」

「それが、えっと、その」


この人から全ての無駄な言葉を削ったら、数語しか残らないのではないのだろうか。

このままじゃ、らちが明かない。真啓は選択肢を提示することにした。

「優って人と連絡が取れたんですか。取れなかったんですか」

「すみません。すみません、申し訳ありません」

恐縮した声がエンドレスで謝罪を繰り返した。真啓は舌打ちしたくなるのを何とか堪える。

「取れなかったんですね？」

「はい、電話番号が変わっていたようで。以前連絡が取れていたアドレスも使えなくなっていました」

公香の予想どおりだ。落胆することはなかった。

もとより、この男を頼りにするつもりなどない。相手は既に餌につられ、包囲網にかかっている。

輝男が名実共に奴らの捨て駒なのだと確認できたのだ、これ以上追及の余地はない。

「分かりました。お手数かけました。それでは失礼します」

「あ、あの、お役に立てなくて誠に申し訳ありませんでした」

電話の前で、取引先に詫びるサラリーマンのようにペコペコと頭を下げる輝男の姿が目に浮かぶ。

二日酔いで下手な運転の車に乗ったぐらい気分が悪い。胸がむかむかする。

「もういいです」

あなたには期待していませんでしたから、と言いかけて、

「あなたに貸しを作るのは、公香も望むところではないでしょうから」

「……すみません」

「一つ、聞いていいですか」

尋ねると、受話器の向こうで息をのむ声がした。

「……ななな何でしょう」

「女子高生を買ったのはどうしてですか」

あのときホテルで見た、楓の生気を失った顔が脳裏に蘇る。

母親の裏切りも、父親の犯した罪も、全てを知ってしまった虚ろな瞳。

背負うにはあまりに重すぎる事実を前に、心を殺すしかなすすべはないと分かっている背中だった。

返答はない。端から、返事を求めて放った質問ではなかった。

糾弾するためだけに狙い澄まして投下した、底意地の悪い刃だった。

そしてその刃は、相手と同じだけ自分を痛めつけると知っていた。

真啓はやりきれない気持ちを乗せて、ゆるゆると息を吐いた。

「すみません。では、失礼します」

もう終わりにしよう――何もかも。