33 / 87
32
しおりを挟む
「今から適当に二人組を作れ。組み手と型の練習をするぞー。先生が一度だけ実演する。後はそれぞれのペアを回って評価つけるからな。真面目にやれよ!」
「聖、お前、俺と組め」
列がほどけるなり、由宇は近づいてきて聖に声をかけた。
「でも俺チビだし。由宇はもっと背の高い奴と組んだほうがやりやすいんじゃないの」
適当な理由で由宇を遠ざけようとしたのは、先ほどの話題に戻るかと思って身構えていたからなのだが、由宇はとりあえず今は体育に集中するつもりのようだった。
「馬鹿。お前が他の奴と組んだら怪我させられるかもしれないだろ。ただでさえ危なっかしいんだから」
聖は思わずため息混じりに言った。
「……あのなあ。いくら何でも、そこまで運動神経悪くないぞ。それに、そんなにやわじゃない。由宇にかばってもらわなくたって、」
「かばってるんじゃない。心配してるだけだ」
「だからそれが過保護なんだって言ってるんだっつの」
小声で悪態をつきつつも、聖は由宇に従って二人組を作ってその場に座る。
このシステムは残酷だな、と思う。
パートナーが見つからない間、おろおろと所在なく立ち尽くす時間といったらもう、この世の地獄を全て凝縮したといっても過言ではないくらいだ。
もちろん、聖の場合はそんなことは一度も起こらなかったけれども。
「よーし。ペアができたな?じゃあ実演を始めるぞー」
教師が柔道部を指名して、一つ一つ技や型の説明をしているのをぼんやりと聞いていると、柔道場の壁にもたれかかって腕組みしていたヴァンが言った。
「そんなにやわじゃない、か。そんな体でよく言う。平気なふりをして、立っているのが精一杯のくせに」
聖は憮然と黙りこくった。
意識が朦朧とする感じはないが、相変わらず地面はふわふわするし体にはあまり力が入らない。
悔しいが、ヴァンの言ったとおりだった。
(人の血を好き勝手飲んだ奴が言う台詞か)
「だから、途中でやめてやっただろう?最後までしていたら、お前は今ごろベッドから起き上がることすらできなかったさ」
たしか人間の血は多くても四、五リットルで、三分の一が失われると死に至ると聞いたことがある。
昨日から今朝にかけて、かなりの血を吸われたが、ヴァンは一体どの程度の量を飲んだのだろう。
(お前、どれだけ飲んだんだよ。俺の血を返せよ)
ヴァンは心底愉快そうにクククと笑った。
「返すだと?そんなことできるわけがないだろうが。あんなのはまだ序の口だ。コップ一杯程度だからな」
大きなガラスのコップになみなみと注がれた深紅の血を想像したら、また目が回りそうになった。
聖は強いてまばたきを繰り返し、ヴァンの姿と声を意識の端に追いやろうと努めた。
だがその努力は、どうやら実を結びそうにもなかった。
「聖、お前、俺と組め」
列がほどけるなり、由宇は近づいてきて聖に声をかけた。
「でも俺チビだし。由宇はもっと背の高い奴と組んだほうがやりやすいんじゃないの」
適当な理由で由宇を遠ざけようとしたのは、先ほどの話題に戻るかと思って身構えていたからなのだが、由宇はとりあえず今は体育に集中するつもりのようだった。
「馬鹿。お前が他の奴と組んだら怪我させられるかもしれないだろ。ただでさえ危なっかしいんだから」
聖は思わずため息混じりに言った。
「……あのなあ。いくら何でも、そこまで運動神経悪くないぞ。それに、そんなにやわじゃない。由宇にかばってもらわなくたって、」
「かばってるんじゃない。心配してるだけだ」
「だからそれが過保護なんだって言ってるんだっつの」
小声で悪態をつきつつも、聖は由宇に従って二人組を作ってその場に座る。
このシステムは残酷だな、と思う。
パートナーが見つからない間、おろおろと所在なく立ち尽くす時間といったらもう、この世の地獄を全て凝縮したといっても過言ではないくらいだ。
もちろん、聖の場合はそんなことは一度も起こらなかったけれども。
「よーし。ペアができたな?じゃあ実演を始めるぞー」
教師が柔道部を指名して、一つ一つ技や型の説明をしているのをぼんやりと聞いていると、柔道場の壁にもたれかかって腕組みしていたヴァンが言った。
「そんなにやわじゃない、か。そんな体でよく言う。平気なふりをして、立っているのが精一杯のくせに」
聖は憮然と黙りこくった。
意識が朦朧とする感じはないが、相変わらず地面はふわふわするし体にはあまり力が入らない。
悔しいが、ヴァンの言ったとおりだった。
(人の血を好き勝手飲んだ奴が言う台詞か)
「だから、途中でやめてやっただろう?最後までしていたら、お前は今ごろベッドから起き上がることすらできなかったさ」
たしか人間の血は多くても四、五リットルで、三分の一が失われると死に至ると聞いたことがある。
昨日から今朝にかけて、かなりの血を吸われたが、ヴァンは一体どの程度の量を飲んだのだろう。
(お前、どれだけ飲んだんだよ。俺の血を返せよ)
ヴァンは心底愉快そうにクククと笑った。
「返すだと?そんなことできるわけがないだろうが。あんなのはまだ序の口だ。コップ一杯程度だからな」
大きなガラスのコップになみなみと注がれた深紅の血を想像したら、また目が回りそうになった。
聖は強いてまばたきを繰り返し、ヴァンの姿と声を意識の端に追いやろうと努めた。
だがその努力は、どうやら実を結びそうにもなかった。
0
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
悪の策士のうまくいかなかった計画
迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。
今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。
そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。
これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに??
王子は跪き、俺に向かって言った。
「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。
そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。
「ずっと好きだった」と。
…………どうなってるんだ?
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる