守護霊は吸血鬼❤

35

「どうした？抵抗はもうおしまいか？」

あざ笑うような声が響き、屈辱に顔が熱くなる。

聖は咳払いをして気分を切り替えようとしたが、落胆は抑えられなかった。

（仕方ない。帰ってインターネットで検索してみるか）

ため息をついて踵を返しかけたところ、後ろから声をかけられた。

「聖」

声はぴんと張った糸のように緊迫していた。

振り向くと、真顔の由宇の姿があった。

「由宇。どうしたんだよ、部活は？」

由宇は答えない。

ただ、真剣な眼差しで食い入るように聖を見つめている。

「何だよ、怖い顔して……」

言いかけた聖の脇をすり抜け、由宇はすっと手を伸ばした。

何もないはずの空間、まさにヴァンが凶悪な笑みを浮かべて立っているその場所に。

目を見開いて絶句する聖の前で、研ぎ澄まされた刃のような声が響いた。

「いるんだろ？そこに」

「え」

言葉が喉の奥に詰まって出てこない。聖はしどろもどろになって視線をさまよわせた。

ヴァンは面白がるように口元を笑ませる。

「ほう？」

（面白がってんじゃねえ！）

「お前の後ろに何かがいるのは分かってるんだ」

「ゆ、由宇」

由宇はにじり寄るようにして、一歩ずつ聖との距離を詰める。

じりじりと後ずさるうちに、背中に本棚が当たる感覚がして、ひやりとした。

狭い隙間に向かい合い、由宇は両手を聖の体の横について囲いこむような体勢になった。

逃げ場を失った聖は、おずおずと由宇の凛々しい顔を見上げる。

「俺には視みることはできない。だけど、分かる。嫌な気配を感じるんだ」

「こいつ……由宇といったか。ただ尽くすだけの愚鈍な能なしではないらしい。さて、どうするかな」

ヴァンはすうっと目を細め、表情も変えずに言い放つ。

（やめろよ！もし由宇に手を出したら）

「出したら？」

（お前のことを許さない）

「どうぞご勝手に」

聖が心の中でなおも何か言い返そうとする前に、由宇が言った。

「おかしくなったのは昨日の夜からだ。お前には視えているんだろう？体育のときも、そいつに反応したんだろう？答えろよ、聖」