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聖はむきになって言いつのった。
「ようやく出ていく気になったのかよ」
「まさか。いったいどこに俺がお前を手放す理由がある?」
薄い唇をひらりと動かし、ヴァンは皮肉に片頬だけで笑う。
そんな表情さえも、どきりとするくらいの色気がある。
どうしてどうして、ただごとではない美貌であった。
声色はあえかになまめかしく、妖しく響く。惑わされまいとして、聖は首を振った。
「今日は除霊師の人に会いに行く日なんだ。お前なんか、消されておしまいだ」
「やれやれ。見くびられたものだな」
ゆったりとした笑みを広げると、ヴァンは腕も使わずに聖の体を引き寄せ、悠々とその肩口に指をかけた。
突然見えない強い力に引っ張られた聖は、なすすべもなく長い腕に囚われる。
「人間ごときがこの俺を消せるわけがない。それが分かっていて、俺がなぜこんなくだらない茶番に付き合ってやるのか分かるか?」
「知るか!」
殴りつけようとした聖の手を片手で封じ、もう片方の手で顎をつかんで自分の方を向かせ、ヴァンは氷のように冷たく言い放った。
「俺はお前の失望する顔が見たいんだよ。俺に屈服し、従属するしか道はないと思い知って、奈落の底に突き落とされる顔がな」
「離せっ!」
腕が折れても構わないと思うくらいの力で暴れたが、あざ笑うようにしてヴァンに絡め取られてしまう。
顎から離れた手が首筋から鎖骨をなぞる。
「や……っ」
鳥肌が立って聖はびくりと肩を跳ね上がらせた。
ヴァンはふっと笑い、首筋に印のようについた痣を撫でた。
耳たぶに舌が触れて、聖は震えおののいた。噛みつかれて、食いちぎられる――!
恐怖と混乱に思わず涙が浮かんだとき、ヴァンは唐突に聖の体を離した。
「はぁっ……はぁっ……」
聖はマラソンを走りきったときのように息があがり、頬は上気し、涙目になってしまう。
「お願いしてみろ」
ヴァンに言われて、肩で息をしながら、聖は顔を歪めた。
「……は?」
「ヴァン様、俺の血を吸ってくださいだ。ひざまずいてそう言え」
想像を絶する発言に対する理解のおくれと、理不尽な怒りのあまり、聖は一瞬声をなくす。
それから何とか途切れ途切れに言った。
「何……言ってんだ。誰が、そんなこと、言うかよ!」
すると、不思議な闇色の瞳がじっと見つめてくる。抗うことを許さない目だ。
力に屈しまいとして、聖は目を逸らした。
(何なんだよこいつ!)
早く由宇と、除霊師の所へ向かおう。
聖はなるべく隙を作るまいとしながら、急いで家を出た。半ば駆けるようにして、早足で進む。
まだ熱をもっている首筋と頬を、吹き抜ける風が心地よく冷やしてくれた。
それでも、歯の根が合わないほど震えていることに気づかないわけにはいかなかった。
初めて覚えたあの、全身から力が抜ける感覚。体の芯が熱くなって、溶けてしまいそうな感覚。
それを認めることが、感じることが、恐ろしくてならなかった。
じっとしていると、肌が変にざわついて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
早く、早くと聖は道を急ぐ。後ろをぴたりとついてくる、ヴァンの視線を感じながら。
一刻も早くこいつを追い払ってしまおう。
怒りが、嫌悪が、恐怖が――別の感情に変わってしまう前に。
「ようやく出ていく気になったのかよ」
「まさか。いったいどこに俺がお前を手放す理由がある?」
薄い唇をひらりと動かし、ヴァンは皮肉に片頬だけで笑う。
そんな表情さえも、どきりとするくらいの色気がある。
どうしてどうして、ただごとではない美貌であった。
声色はあえかになまめかしく、妖しく響く。惑わされまいとして、聖は首を振った。
「今日は除霊師の人に会いに行く日なんだ。お前なんか、消されておしまいだ」
「やれやれ。見くびられたものだな」
ゆったりとした笑みを広げると、ヴァンは腕も使わずに聖の体を引き寄せ、悠々とその肩口に指をかけた。
突然見えない強い力に引っ張られた聖は、なすすべもなく長い腕に囚われる。
「人間ごときがこの俺を消せるわけがない。それが分かっていて、俺がなぜこんなくだらない茶番に付き合ってやるのか分かるか?」
「知るか!」
殴りつけようとした聖の手を片手で封じ、もう片方の手で顎をつかんで自分の方を向かせ、ヴァンは氷のように冷たく言い放った。
「俺はお前の失望する顔が見たいんだよ。俺に屈服し、従属するしか道はないと思い知って、奈落の底に突き落とされる顔がな」
「離せっ!」
腕が折れても構わないと思うくらいの力で暴れたが、あざ笑うようにしてヴァンに絡め取られてしまう。
顎から離れた手が首筋から鎖骨をなぞる。
「や……っ」
鳥肌が立って聖はびくりと肩を跳ね上がらせた。
ヴァンはふっと笑い、首筋に印のようについた痣を撫でた。
耳たぶに舌が触れて、聖は震えおののいた。噛みつかれて、食いちぎられる――!
恐怖と混乱に思わず涙が浮かんだとき、ヴァンは唐突に聖の体を離した。
「はぁっ……はぁっ……」
聖はマラソンを走りきったときのように息があがり、頬は上気し、涙目になってしまう。
「お願いしてみろ」
ヴァンに言われて、肩で息をしながら、聖は顔を歪めた。
「……は?」
「ヴァン様、俺の血を吸ってくださいだ。ひざまずいてそう言え」
想像を絶する発言に対する理解のおくれと、理不尽な怒りのあまり、聖は一瞬声をなくす。
それから何とか途切れ途切れに言った。
「何……言ってんだ。誰が、そんなこと、言うかよ!」
すると、不思議な闇色の瞳がじっと見つめてくる。抗うことを許さない目だ。
力に屈しまいとして、聖は目を逸らした。
(何なんだよこいつ!)
早く由宇と、除霊師の所へ向かおう。
聖はなるべく隙を作るまいとしながら、急いで家を出た。半ば駆けるようにして、早足で進む。
まだ熱をもっている首筋と頬を、吹き抜ける風が心地よく冷やしてくれた。
それでも、歯の根が合わないほど震えていることに気づかないわけにはいかなかった。
初めて覚えたあの、全身から力が抜ける感覚。体の芯が熱くなって、溶けてしまいそうな感覚。
それを認めることが、感じることが、恐ろしくてならなかった。
じっとしていると、肌が変にざわついて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
早く、早くと聖は道を急ぐ。後ろをぴたりとついてくる、ヴァンの視線を感じながら。
一刻も早くこいつを追い払ってしまおう。
怒りが、嫌悪が、恐怖が――別の感情に変わってしまう前に。
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