守護霊は吸血鬼❤

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刹那、目もくらむような怒りが、武者震いのように全身を駆けめぐる。

だが、半拍遅れて恐怖がじわじわと心を侵食し、脅かしてきた。

相手は多数。それに対してこちらは、たった二人だ。

しかも、頼りがいのある由宇は、今は戦闘不能状態で地面に転がっている。

壊れた人形のように、さんざん手酷く痛めつけられて。

（……怖い）

腕力に自信なんてない。勝てる喧嘩のやり方など分からない。人を殴るのが怖い、殴られるのが怖い。

今までこんな状況を目の当たりにしたことすらなかったのだ。一体、どうすれば――

そのときだった。

「分かっただろう？聖」

後ろから、悪魔のような声が誘うように優しく耳打ちした。

聖は極度のパニックのあまり、今その存在に気づいたかのようにヴァンのほうを振りかえった。

彼は薄い唇を笑ませながら、このうえなく甘やかに言った。　

「お前は俺の元へ堕ちてくるしかないんだ。そうする以外、方法はない」

心臓がどきりと大きく脈打った。

上ずった声で、聖は反論する。

「何を言って」

「お友達を助けたいんだろう？ならやることは一つだ。お前には分かっているはずだ」

ヴァンのことさらにゆったりとした言い含めるような口調に、聖はようやく言葉の真意を察して戦慄した。

その反応を見て、ヴァンは心得たように言った。

「そうだ。血を差し出せばいい。それを対価に、俺の力であいつらをなぎ払うことができる。とても簡単に。赤子の手をひねるように」

「そんな……」

聖は狼狽に瞳を泳がせる。

ヴァンはこうなることを知っていて、取引を持ちかけたに違いなかった。

茫然と立ちすくんだままの聖を眺め、ヴァンは典雅な仕草で両手を広げた。

「さあ、どうする？そうやってぼうっと突っ立ったまま、笹倉由宇が再起不能にされるのをただ待つか、それとも」

「……っ！」

肉がへしゃげるような音は絶え間なく続いている。このままでは本当に、由宇は殺されてしまう。

運よく助かったとしても、バスケ部に復帰できなくなるかもしれない。そんな由宇の姿を見るのはたまらなかった。

かと言って、ヴァンに助けを請うことなどできない。こんな残忍な男に借りを作るのはまっぴらだ。

これから自分は、こいつを消し去りにいくのだから。

聖はぎゅっと爪が食い込むほど手を握り締めた。流れる血が溶岩のように熱い。

（俺が由宇を助けなきゃ。自分の力で）

「うわああああああっ！！！！！」

その時、喉が破けて血が噴き出そうなほどの悲鳴が響き渡った。

「やめてくれ。もう……やめてくれ……っ！」

泣きわめき、懇願する由宇の声が聞こえてくる。耳をふさぎたくなるほどの痛ましい、いとわしい叫び声。

（嫌だ！）

敗北し、地面にひれ伏した由宇が、許しを乞うみじめな姿など見たくない。

敵はそれほどまでに容赦なく、徹底的に卑劣なのだ。

自分一人加勢したところで、到底かなうはずがない。

（駄目だ。俺じゃ勝てない……足手まといになるだけだ）