守護霊は吸血鬼❤

凪子

文字の大きさ
59 / 87

58

しおりを挟む
散らばった硝子片を片付け、数珠を拾い集め、砕けた湯のみを掃除する遥を聖は手伝った。

あんなに凄い術のようなものが使えるのに、掃除は手で行わなければならないのが滑稽でもあり、かえってほっとするようでもあった。

「大丈夫?手、切らなかった?」

遥は心配そうに尋ねてくる。和やかな目つきは、優しいお兄さんそのものだ。

綺麗に清められた居間に向かい合って座ると、先ほどまでの非日常が限りなく遠く思えた。

改めて淹れてもらった緑茶の湯のみを両手でくるみ、聖はおそるおそる切り出した。

「あの、月代さん」

「遥でいいよ。何?」

と、遥は穏和な笑みで優しく促した。

聖はテーブルに額がつくほど深く頭を下げて、

「さっきは本当にすみませんでした。祓ってもらいたいなんて言っておいて、俺」

言葉が喉につっかえる。胸の奥が苦い。叱責と罵倒が待ち受けているかと身を硬くする。

「いいんだよ。顔を上げて」

思いがけず柔らかな遥の反応に、聖は救われた思いがした。

遥は茶を飲みながら、にこにこと目を細めて笑っている。

そこに先ほどまでの酷薄な面影は微塵も見当たらなかった。

「僕も事を急ぎすぎたな、とは思っているんだよ。最初にいろんなことをちゃんと説明しておけばよかったね」

(お、大人だ……!)

聖は尊敬と羨望の眼差しで遥を見上げた。感動を通り越して、神々しくさえ見える。

「あの男は君に何も話さなかったんだね」

年少者を扱い慣れている刑事のような口ぶりで、彼は言った。

聖はヴァンと出会ってからの数日間のことを思い起こしながら、

「名前と、自分は吸血鬼だとしか。俺、最初はみんなにも視えてると思ったんですけど、兄も友達も視えなくて。それで由宇が、遥さんのところへ行けって言ってくれたんです」

「あの男が初めて君の前に現れたのは、君たちの学校の裏の小高い丘にある祠じゃなかったかい?」

聖は驚きながら何度も首を縦に振った。

「はい。そうです。そのとおりです」

「そのとき彼は、最初どんな姿をしていたか教えてもらえるかな」

「小さな子供でした。口に布みたいなのを巻かれていて、そこに文字だか数字だかがびっしり並んでいて。俺、子供が口をふさがれてるんだと思って、何も考えずにそれを剥がしたら……」

「子供は成長し、彼の姿になった……と」

遥は自然に言葉を引き取り、聖は頷いた。

「はい」

経緯を説明している間、遥はしっかりと聖の目を見て頷き、相づちを打って聞いてくれた。

聖は久しぶりにまともな会話をした、と思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...