守護霊は吸血鬼❤

凪子

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「ここは」

膝をついてあたりを見回した聖は、そこが暗い森の中だということしか分からなかった。

隣にいたヴァンがちっと忌々しげに舌打ちする。

「転移結界か」

「そのとおりだよ」

森閑とした空気に、凛冽とした声が響いた。

森の奥から現れた遥は僧衣に身を包み、握り締めた錫杖を銃口のようにしてヴァンに向けた。

「数晩かけて作り上げた、強力な包囲陣も敷いてある。いくら君といえども、この堅固な檻を破ることは不可能だ。さあ、聖君をこちらに渡してもらおうか」

手を伸ばし、遥は断罪するような口調で言い放った。

「断る。お前に指図される謂れなど微塵もない。聖は俺のものだ。とっとと尻尾を巻いて逃げるがいい。さもなくば、殺す」

臨戦態勢に入ったヴァンの壮絶な殺気を感じ、聖はしり込みするように後退った。

遥はそれを見つめて軽侮をこめて笑う。

「やれやれ。君の思い込みの激しさには恐れ入るよ。一体どうやったら、そこまでひどい勘違いができるのやら。聖君が君のものだって?笑わせる。冗談はそのふざけた格好だけにしておいてもらうか」

「お前に服装のことをとやかく言われたくはないな。先祖の恨みか何か知らんが、俺を勝手に目の仇にするのは許してやろう。だが、俺と聖の間を邪魔立てしてくれるな。お前がどんなに小賢しい知恵を使っても無駄だ、お前に俺は殺せない。聖がいる限りな」

「それが思い上がりだと言うんだよ、ヴァン・F・アルカード。聖君はもう君のものじゃない。僕のものだ」

遥は堂々とそう言い切ると、聖を熱いまなざしで見つめた。ヴァンの瞳が剣呑な光を帯びる。

「どういうことだ?聖」

聖は何とか声を振り絞ってこう言った。

「遥さんの言うとおりだよ。俺はお前のものじゃない。お前は、俺の敵だ」

ヴァンは辛そうに顔を歪ませる聖から遥へと視線を移し、合点がいったようだった。

「なるほどな。そういうことか。お前だな、聖に余計なことを吹き込んだのは」

「余計なことを言った覚えはないよ。君にとっては、知られては不都合な真実だったかもしれないが」

ヴァンはふん、と鼻を鳴らすと、人を殺せそうなほどの凶暴な笑顔でこう言った。

「俺のものに手を出してただで済むと思うなよ。その罪、死をもって贖ってもらう」

その途端、赤い雷のようなものが無数に伸びて、遥に襲いかかった。

生き物のように動いて執拗に追尾してくるそれを、遥はすんでのところでかわす。

そして錫杖を一振りすると、手元に黒数珠が現れた。

「同じ手を二度も食らうか」

と言って、ヴァンは指を鳴らす。すると、黒数珠は木っ端微塵に砕けた。

心なしか、前回よりもヴァンの力が強大になっている気がする。

どうしてだろうと逸る心で考えて、聖ははっと上空を見上げた。

(満月!そう、満月だ)

既に日はとっぷりと傾き、木下闇には黒い影が絶え間なくゆらめき蠢動している。

この条件は、明らかにヴァンに有利に働いている。

「遥さん!」

遥は苦戦を強いられていたが、聖を見ると微笑み、頷いて見せた。

「大丈夫だよ。今度こそ、僕がこの手でこいつを殺してみせる」

「ぬかせ」

とヴァンは言って、指先を空から地へと振り下ろした。すると、氷の刃が上空から一斉に降り注ぐ。

遥は逃げ惑い、ヴァンはそれを容赦なく追撃する。聖は必死で二人の動きを追いかけた。

二人は術を使って攻防し合いながら深い森の中を登攀し、気がつけば開けた場所へたどり着いていた。

走りすぎて胸が破れそうだ。聖はぜいぜいと息を切らしながら、額を流れる汗を拭う。

そして、辺りの景色に見覚えがあることに気づいた。

(ここは……)

開いた掌を遥に向け、黒い蛇のような術を放っていたヴァンの動きがぴたりと止まる。

そして、苦虫を噛み潰した顔になった。

「小癪な真似をする」

そう言って見下ろした眼下には、明かりの灯る町並みに包み込まれるようにして、聖たちの通う高校が小さく広がっていた。

(ここは学校の裏庭だ。あいつと初めて出会った……)

聖はとっさに月を見上げた。あの時のような、血に濡れたよぅな深紅の月が出ているのではないかと疑って。

だが、そこにあるのは白く清浄な光を放つ、いつも通りの月だった。

「君には切り離された肉体ごと、ここで消滅してもらうよ」

遥は鈴のような音色を立てて錫杖を振り上げ、怖気が奔るほど冷ややかな眼差しでそう言った。

聖は遥の考えが読めてうなじに鳥肌が立った。

(偶然じゃない。遥さんは、敢えてここまでヴァンをおびき寄せた。そして、祠を壊すことでヴァンを肉体ごと殺すつもりなんだ)

ヴァンにも当然分かったらしく、薄く不敵な笑みを浮かべる。

「お前程度の力で?世迷言も大概にするんだな。あの彼方でさえ、俺を封印することしかかなわなかったんだ。それに劣る貴様には、俺を消すどころか肉体に傷一つつけられまいよ」

「果たしてそうかな?」

と、遥は冷厳とした声で言った。その場の空気が震撼する。
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