女子高生占い師の事件簿

【１】ハーモニクス アストロジー

32

「今日は美蘭さん、来ないかもしれないよ」

「へえ？」

律はスマホを取り出すと、スクリーンショットの画像を見せた。

Ａ４サイズの紙いっぱいに、まばゆいほどの笑顔で少女が映っていた。

「もしかして、これが関係したりする？」

「……りっちゃんも気づいてたんだ」

恵果は天をあおいだ。

それは、若さと美の結晶のような、数年前の美蘭の姿だった。

まだ瞳は翳っておらず、瑞々しい魅力がはちきれんばかりに詰まっている。

「俺、あの人どっかで見たことあるなーって思ってたんだよ」

それで今日、部屋を掃除しているときに見つけ、本人に確認をとろうとしていていたのだという。

「っていうか、そんなもの持ち歩いてて恥ずかしくないの？りっちゃんの変態」

「なっ、何だと！」

恵果はくすくす笑いながら、飛んできた律の手をひらりとかわした。

「ねえりっちゃん、私も一つ聞いていい？」

「あん？」

「【ＲＩＴＺ】ってグループ名、どうやってつけたの？誰がつけたの？教えて」

「ああ……どうだったけな」

律は考えを巡らせながら、人さし指で頬をかいた。

「俺が考えたんじゃないから、比呂がつけたんだろ。律だからリッツ。そんなとこじゃねえの？」

比呂が以前、そんなことを言って勝手に名前をつけていたような気がする。

別にこだわりも反論もなかったので、律もその名前を受け入れた。

「それだけ？」

深い瞳で見つめられ、律は言葉に詰まる。

「何。何かあるわけ？」

「ううん。ぴったりだなあと思って。響きもいいし」

律は意図が分からず、眉を寄せた。

恵果が何も言わずに店を出るのを見て、ギターを背負い、その後を追う。

恵果の足どりはいつも、弾むように軽い。とらえどころのない娘だ。

――その日、やはり美蘭は姿を現さなかった。