女子高生占い師の事件簿

凪子

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【2】リロケーション

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恵果はくすくす笑う。

「比呂ってそういうところ、お兄ちゃんに似てる。妙なところで心配性なんだよね」

「へえ?」

「ってか、お前兄貴いるのかよ。何歳?」

「あれ、言わなかったっけ?今二十一だよ。大学三年生」

「それでか」

恵果が妙に大人びていることや、年上の男に対して自然に振舞える理由が、律には分かった気がした。

まあ、恵果なら兄がいようといまいと関係ない気はするが。

「何が?りっちゃん」

「何でもねー」

律はそっぽを向いた。

何よ、と恵果は文句を言ったが、どこか嬉しそうだ。

「じゃあ帰るね。ちゃんとベッドで寝なよ、比呂」

恵果は言い残し、鞄を手に立ち上がった。律が慌てて立ち上がり、後を追う。

玄関口で、細い肩をつかんだ。つややかな黒髪がさらりと揺れる。

「待てよ。送ってく」

「平気よ。もう明るいから」

恵果はやんわりと右手で律の手を外した。

そういえば、俺こいつの家知らねえや。律は今さらなことに気づいて、驚いた。

固まっている律を見つめ、恵果は小首を傾げて微笑んだ。

「一つ忠告しておくね。人の話は、よく聞くこと。了解?」

「了解……だけど、」

「じゃあね、りっちゃん」

鼻先で音を立てて閉まったドアに、律はなぜか敗北感を感じた。

恵果は、誰にでも優しく親切だ。けれど、あまり自分のことを語らない。

注意深く詮索を逃れ、手を伸ばしても寸前ですり抜けていってしまう。

人格がはっきりとした形を取らないから、誰にも捕まらない、縛られない。

そんな根無し草のような軽さが、律には危うく思えて仕方なかった。

――そういや、あいつがここに入り浸るようになったのも、不思議なきっかけだったな……。
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