57 / 138
【2】リロケーション
57
しおりを挟む
そこは、だだっぴろい地下駐車場だった。
当然のことながら、止まっている車は一台もない。
轟々と風を吸い込む不気味な空間が、律の感覚を研ぎ澄ました。
「亜子!!どこだ」
くそ、出てきやがれ。
「亜子!!」
律は苛立ちまぎれに叫んだが、声は空しく反響するばかり。
もう一度叫ぼうとして、やめた。二十メートルほど先に、誰かが姿を見せたからだ。
現れた人影は六、七人だった。
リーダー格のような男が、亜子を羽交いじめにしてナイフを突きつけている。
その手つきは、律が見る限り、まるっきりの素人だった。
「……亜子を離せ」
こつ、こつと、足音が響く。
男たちに近づきながら、律は威嚇するように言った。いつでも飛びかかれるように腰を低くし、身構える。
リーダー格の男は律より少し背が高く、年も少し上のようだが――。
「え……?」
律は驚いて足を止めた。
リーダー格の男に、明らかに見覚えがあったからだった。
「よう。よく来たな、律」
「……大迫?」
律は、信じられない気持ちで、目の前に立ちはだかる専門学校の同級生を見つめた。
声に反応して、亜子の指先がぴくりと動くのが分かった。
「何の冗談だよ。まさか亜子の『お付き合い』している相手が、お前だとか言わないだろうな」
大迫ツトムは高らかに笑った。
「そのとおりだよ。相変わらず勘がいいな」
「とにかくナイフをしまえよ」
ツトムは何とも言えず不気味に、にやっと笑った。
「俺に命令するな。今、どっちが上の立場にいるか思い知れ」
首に回された腕が締まり、亜子がうめき声をあげた。
「しばらく学校に来てなかったから、心配してたんだぞ。ラインも既読スルーだし」
律はできる限りツトムを刺激しないように言いながら、さりげなくスマホをポケットの中で触れて、自分のうかつさを呪った。
ここは地下だ。スマホは圏外を示している。
外部の連絡が完全に絶たれた。ツトムの思惑通りというわけだ。
当然のことながら、止まっている車は一台もない。
轟々と風を吸い込む不気味な空間が、律の感覚を研ぎ澄ました。
「亜子!!どこだ」
くそ、出てきやがれ。
「亜子!!」
律は苛立ちまぎれに叫んだが、声は空しく反響するばかり。
もう一度叫ぼうとして、やめた。二十メートルほど先に、誰かが姿を見せたからだ。
現れた人影は六、七人だった。
リーダー格のような男が、亜子を羽交いじめにしてナイフを突きつけている。
その手つきは、律が見る限り、まるっきりの素人だった。
「……亜子を離せ」
こつ、こつと、足音が響く。
男たちに近づきながら、律は威嚇するように言った。いつでも飛びかかれるように腰を低くし、身構える。
リーダー格の男は律より少し背が高く、年も少し上のようだが――。
「え……?」
律は驚いて足を止めた。
リーダー格の男に、明らかに見覚えがあったからだった。
「よう。よく来たな、律」
「……大迫?」
律は、信じられない気持ちで、目の前に立ちはだかる専門学校の同級生を見つめた。
声に反応して、亜子の指先がぴくりと動くのが分かった。
「何の冗談だよ。まさか亜子の『お付き合い』している相手が、お前だとか言わないだろうな」
大迫ツトムは高らかに笑った。
「そのとおりだよ。相変わらず勘がいいな」
「とにかくナイフをしまえよ」
ツトムは何とも言えず不気味に、にやっと笑った。
「俺に命令するな。今、どっちが上の立場にいるか思い知れ」
首に回された腕が締まり、亜子がうめき声をあげた。
「しばらく学校に来てなかったから、心配してたんだぞ。ラインも既読スルーだし」
律はできる限りツトムを刺激しないように言いながら、さりげなくスマホをポケットの中で触れて、自分のうかつさを呪った。
ここは地下だ。スマホは圏外を示している。
外部の連絡が完全に絶たれた。ツトムの思惑通りというわけだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる