女子高生占い師の事件簿

【５】イベントチャート

120

「恵果さんが、あなたたちに屈するはずないわ」

「さあ。それはどうかな」

比呂は凄味のある笑顔で言った。

亜子は反射的に身を引く。

きっと、まだ切り札を隠しているのだろう。

そして――先ほど聞いた名前。

亜子は不吉な予感がしてならなかった。

「勘がよすぎるっていうのも考えものだね、亜子ちゃん」

亜子の心情を読んだかのように、比呂が薄く笑った。

「藤森恵吾、君はその名前に違和感を覚えたんだろ。漢字は、君の想像している通りだよ。恵果は、藤森総裁から名前を一字もらったんだから」

亜子は慄然と悟った。喉の奥がへばりついて、声が出ない。

比呂は悠然と微笑み、駄目押しした。

「もう分かったね？恵果は、藤森恵吾の実の娘だ」

亜子は頭が真っ白になるのが分かった。

口から言葉にならないうめき声が漏れる。

「……そんな、じゃあ、あなたたちは」

風が吹き抜け、亜子の前髪を散らした。

「親父が恵果を潰したがってるのには、そういう理由もあるのさ。君はまだ恵果の真骨頂を知らない。あの娘にとって、人を占うことなんか朝飯前さ。極端な言い方をするなら、あの娘が本気を出せば、日本の未来さえ占える。遊びの星占いとは違う、統計学と天文学に基づいた、れっきとした予知によってね。
その百発百中の未来を使えば、いくらでものし上がることが可能になる。逆に言うなら、他の陣営に取り込まれてこちらと反目する前に、懐柔するなり潰すなり対処しなければならない存在なんだ」

いつもは情報公開に対して慎重な比呂が、ここまで饒舌なのは初めてだ。

つまり、このことはもうばれても構わない、何ら支障をきたさないということだ。

亜子は顔を歪めた。

比呂はもう、水も漏らさぬ構えで包囲網を張っている。