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【5】イベントチャート
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「たとえ誰がどんな目に遭っても、藤森の道具になる気はありません」
恵果の押し殺したような声に、龍之介は責めるように言った。
「君だって、仮にも先代総裁の血を継ぐ藤森の女性だ。僕らに協力する義務があるとは思わないのか」
恵果はきっと眦を決し、音を立てて立ち上がった。
「ぬけぬけと。よくもそんな都合のいい理屈を押しつけるられるわね。今まで母と兄に、どんな仕打ちをしたかも忘れて」
比呂は、隣で父が怯むのが分かった。
恵果の体から発される憤怒のオーラは、鞭のごとく二人を打ちつけていた。
「母は一切の援助なしに私や兄を育て、三年前に過労死しました。藤森の姓を母に与えず、金も渡さずに放りだして、葬儀にも参加しなかったのはどこのどなた?
あなたたちは、私たちの存在を公に認めないと言ってるも同然よ。私だって、兄と母を棄てた藤森に、何の未練も情もない。
十六年間そうやって放置しておいて、都合のいいときだけ義理だの義務だの持ち出されても、話になるわけないでしょう。ご立派なプロジェクトを企画なさっているか知りませんけど、私はこの前言ったように、一切協力いたしません。
私はどんな人も平等に占うと心に決めていますけど、あなたたちのことを『人間』だとは思っていませんから。
あなたたちが私たちをそう扱ってきたんだから、当然でしょう。
せいぜい他のインチキ占い師でも雇って、無駄金をはたくことね」
恵果は息も継がずに言い切った。
――私は、あなたたちには屈しない。
そんな恵果の意志が、言葉を通じて伝わってくる。
そう、これは宣戦布告なのだ。
「それから、これは占いではなく忠告だけど、新たな分野に乗り出す前に、足場をきちんと踏み固めることをなさったほうが身のためですよ。藤森家当主の座を狙っている人は、あなたの身近にいないとも限りませんから」
龍之介は圧倒されたかのように目を見開いていたが、やがてようやく声を上げた。
「ここまで私たちに喧嘩を売る、君の無謀さは認めるがね。取り消すなら今のうちだぞ。私は父ほど甘くない」
龍之介には、自分に動かせないものなどないと過信する者の余裕があった。
それは、かつての比呂にもあったものだった。
「いいえ。あなたでは私には勝てない。息子を斥候に立たせ、こそこそと私の様子を探り、懐柔がうまくいかなければ人質を取ることしかできない、器の狭い人には」
龍之介の顔が紅潮するのが、比呂にも分かった。
激すると、この人はいつもこうなるのだ。
「何だと」
「お金では動かせないものもあるということを知りなさい。もう二度と会うこともないでしょうから、最後に思う存分言わせてもらいました。では、さようなら」
恵果は踵を返して歩き始めた。
「待ちなさい!」
龍之介は立ち上がる。
だが、振り向きざまの恵果に、父・恵吾の姿が重なって思わず息を飲む。
「もう、恨んではいません。ただ今は、あなたたちを憐れに思うだけ」
最後の一秒まで、恵果は誇り高いままだった。
恵果の押し殺したような声に、龍之介は責めるように言った。
「君だって、仮にも先代総裁の血を継ぐ藤森の女性だ。僕らに協力する義務があるとは思わないのか」
恵果はきっと眦を決し、音を立てて立ち上がった。
「ぬけぬけと。よくもそんな都合のいい理屈を押しつけるられるわね。今まで母と兄に、どんな仕打ちをしたかも忘れて」
比呂は、隣で父が怯むのが分かった。
恵果の体から発される憤怒のオーラは、鞭のごとく二人を打ちつけていた。
「母は一切の援助なしに私や兄を育て、三年前に過労死しました。藤森の姓を母に与えず、金も渡さずに放りだして、葬儀にも参加しなかったのはどこのどなた?
あなたたちは、私たちの存在を公に認めないと言ってるも同然よ。私だって、兄と母を棄てた藤森に、何の未練も情もない。
十六年間そうやって放置しておいて、都合のいいときだけ義理だの義務だの持ち出されても、話になるわけないでしょう。ご立派なプロジェクトを企画なさっているか知りませんけど、私はこの前言ったように、一切協力いたしません。
私はどんな人も平等に占うと心に決めていますけど、あなたたちのことを『人間』だとは思っていませんから。
あなたたちが私たちをそう扱ってきたんだから、当然でしょう。
せいぜい他のインチキ占い師でも雇って、無駄金をはたくことね」
恵果は息も継がずに言い切った。
――私は、あなたたちには屈しない。
そんな恵果の意志が、言葉を通じて伝わってくる。
そう、これは宣戦布告なのだ。
「それから、これは占いではなく忠告だけど、新たな分野に乗り出す前に、足場をきちんと踏み固めることをなさったほうが身のためですよ。藤森家当主の座を狙っている人は、あなたの身近にいないとも限りませんから」
龍之介は圧倒されたかのように目を見開いていたが、やがてようやく声を上げた。
「ここまで私たちに喧嘩を売る、君の無謀さは認めるがね。取り消すなら今のうちだぞ。私は父ほど甘くない」
龍之介には、自分に動かせないものなどないと過信する者の余裕があった。
それは、かつての比呂にもあったものだった。
「いいえ。あなたでは私には勝てない。息子を斥候に立たせ、こそこそと私の様子を探り、懐柔がうまくいかなければ人質を取ることしかできない、器の狭い人には」
龍之介の顔が紅潮するのが、比呂にも分かった。
激すると、この人はいつもこうなるのだ。
「何だと」
「お金では動かせないものもあるということを知りなさい。もう二度と会うこともないでしょうから、最後に思う存分言わせてもらいました。では、さようなら」
恵果は踵を返して歩き始めた。
「待ちなさい!」
龍之介は立ち上がる。
だが、振り向きざまの恵果に、父・恵吾の姿が重なって思わず息を飲む。
「もう、恨んではいません。ただ今は、あなたたちを憐れに思うだけ」
最後の一秒まで、恵果は誇り高いままだった。
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