56 / 133
本編
55
しおりを挟む
一日が過ぎ、二日が過ぎ、一週間が過ぎ、二週間が過ぎた。
私から連絡することはできない。
その間も、何度かあの夢を見ることがあった。
作り物のように美しい世界の、夢。
――ディエス・イレが近い。
何度も声が呼びかけてくる。
でも、それが誰なのか、何を意味しているのかは分からない。
相談したくても、爽君のカウンセリングはもう受けられない。
「暑っついね~」
「ねー、もう半袖でよくない?」
昇降口のところで、女子生徒たちが話す声が耳に入り、私は空を見上げた。
ピンク色の桜並木は、エメラルドグリーンの新緑に着がえている。
汗ばんだシャツが体に張りつく。
確かに、今日は蒸し暑い。
もう五月も残り数日、湿った空気は梅雨の訪れを知らせようとしていた。
【舞、元気? どうしてるかなと思って連絡したよ】
紘ちゃんからのラインだった。
私は紘ちゃんとも連絡を絶っていた。
別に紘ちゃんと気まずくなったわけではないけれど、何となく、そうしたほうがいい気がしたのだ。
【元気だよ。ありがとう。紘ちゃん、怪我の具合はどう?】
【俺も元気だよ~ やっと包帯も取れたし】
【そっか、よかった】
スタンプを送ろうとする指が止まる。
(爽君が紘ちゃんを殺そうとした……)
多分まだ、紘ちゃんは警察に通報していない。
大好きな幼馴染である爽君が、逮捕されるのを見たくないのだろう。
(私は、どうするべきなんだろう)
警察に通報する?爽君から話を聞く?
それとも、紘ちゃんの話だけを信じて、爽君と距離を置く?
(全部嫌だ)
どの選択肢を選んでも、納得できそうもない。
私から連絡することはできない。
その間も、何度かあの夢を見ることがあった。
作り物のように美しい世界の、夢。
――ディエス・イレが近い。
何度も声が呼びかけてくる。
でも、それが誰なのか、何を意味しているのかは分からない。
相談したくても、爽君のカウンセリングはもう受けられない。
「暑っついね~」
「ねー、もう半袖でよくない?」
昇降口のところで、女子生徒たちが話す声が耳に入り、私は空を見上げた。
ピンク色の桜並木は、エメラルドグリーンの新緑に着がえている。
汗ばんだシャツが体に張りつく。
確かに、今日は蒸し暑い。
もう五月も残り数日、湿った空気は梅雨の訪れを知らせようとしていた。
【舞、元気? どうしてるかなと思って連絡したよ】
紘ちゃんからのラインだった。
私は紘ちゃんとも連絡を絶っていた。
別に紘ちゃんと気まずくなったわけではないけれど、何となく、そうしたほうがいい気がしたのだ。
【元気だよ。ありがとう。紘ちゃん、怪我の具合はどう?】
【俺も元気だよ~ やっと包帯も取れたし】
【そっか、よかった】
スタンプを送ろうとする指が止まる。
(爽君が紘ちゃんを殺そうとした……)
多分まだ、紘ちゃんは警察に通報していない。
大好きな幼馴染である爽君が、逮捕されるのを見たくないのだろう。
(私は、どうするべきなんだろう)
警察に通報する?爽君から話を聞く?
それとも、紘ちゃんの話だけを信じて、爽君と距離を置く?
(全部嫌だ)
どの選択肢を選んでも、納得できそうもない。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
魅了持ちの執事と侯爵令嬢
tii
恋愛
あらすじ
――その執事は、完璧にして美しき存在。
だが、彼が仕えるのは、”魅了の魔”に抗う血を継ぐ、高貴なる侯爵令嬢だった。
舞踏会、陰謀、政略の渦巻く宮廷で、誰もが心を奪われる彼の「美」は、決して無害なものではない。
その美貌に隠された秘密が、ひとりの少女を、ひとりの弟を、そして侯爵家、はたまた国家の運命さえも狂わせていく。
愛とは何か。忠誠とは、自由とは――
これは、決して交わることを許されぬ者たちが、禁忌に触れながらも惹かれ合う、宮廷幻想譚。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる