ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

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飛び立つ瞬間は、いつだって緊張する。

それが初めてなら、なおさらのことだ。

「怖いか?」

エンジンの爆音の中、唇を噛みしめている私の手を、爽君が握った。

傍から見ても、青ざめているのが分かったのだろう。

「だ、大丈夫」

ヘリコプターの座席は狭く、囚人のようなベルトでがっちり固定されているので、ほとんど身動きが取れない。

爽君とは肩が触れ合う距離で座っている。

(不思議……爽君のことは、全然怖くない)

紘ちゃんを殺そうとした人かもしれないのに、そんな人がすぐ近くに座っているのに。

私を騙して、ヘリでどこかに連れていこうとしているのかもしれないのに。

ふわっと体が浮く、あの感覚がした直後、物すごい速さでヘリは宙へ飛び上がった。

空を切り裂き、突き進むように斜めに機体が持ち上がる。

前面から重力がかかって、見えない手で体を押さえつけられているようだった。

爽君は運転席の人(外国人だった)と短い会話を交わすと、私のほうに向き直った。

「シートベルト外していいぞ」

「えっ、いいの?」

身を乗り出した途端、窓の外が目に入り、私は思わず歓声を上げた。

「わぁ……!!」

すごい光景だった。テレビや写真で見るのではなく、生で見る空からの東京の街だ。

ミニチュアのような東京の街が、海岸線までくっきりと見えている。

赤々と照り輝く太陽が、森のようにそびえ立つビルの群れの中に悠然と沈んでゆく。

真紅の光が空に乱反射し、目を開けていられないほどまぶしかった。

「すごい。すごいね、爽君!」

あまりにも綺麗すぎて、すごいしか言葉が出てこない。

心の中のわだかまりも、悩みも、一瞬で吹き飛んでしまうほど素晴らしい眺めだった。

「よかった。舞の笑顔が見られて」

爽君が微笑みながら言うので、顔が熱くなる。

(出た、アメリカ風ストレート殺し文句)

心臓がどきどきしているのは、空にいるからなのか、別の理由なのか。

分からないまま、私と爽君は並んで東京の街を見下ろしている。
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