ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

68

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「二度と俺たちの前に姿を現すな」

「どういう意味だ」

「言葉どおりの意味だよ。もう終わりだ。俺と舞ちゃんは、あなたと決別する」

「そんなこと、お前に決められる筋合いはない」

「いや、あるね」

紘ちゃんは一歩も引かなかった。

人さし指で私の涙を拭い、それを爽君に突きつける。

「これが証拠だ。あなたは舞ちゃんを泣かせ、怖がらせた。押さえつけて、無理やり思いどおりにしようとしたんだ。これが犯罪じゃなくて何になる」

「違う!俺はただ」

「ただ、何だよ」

紘ちゃんは凄味のある顔で言った。

爽君は口を開こうとし、つぐみ、ようやく振り絞るように言った。

「舞に聞いてくれ。舞、お前なら分かるよな?俺たちは恋人同士だったんだ。今だって」

その言葉は、驚くほど呆気なく私の心の表面を上滑りしていった。

(駄目……どうしたらいいのか分からないよ……)

考えたくないことだったが――爽君はただ、頭がおかしくなっただけなんじゃないだろうか。

だからいきなり前世とか言い出したり、紘ちゃんを階段から突き飛ばしたりしたんじゃないだろうか。

それとも、私を好きになったから?だから、わざわざアメリカから帰ってきた?

邪魔者である紘ちゃんを殺すために?

混乱はちっとも収まらず、私は頭を左右に振った。

それが答えだった。

「舞」

乾いた、ひび割れた声で爽君が言う。

でも、私は動かない。

その場から一歩も動けない。何の言葉も出てこない。

裏切られたと彼は思うだろうか。ちゃんと耳を傾けると、約束したのに。

「もういいだろ。消えろ」

雑な仕草で紘ちゃんが手を振る。まるで別人のような口調だった。

(ごめんなさい……ごめんなさい爽君)

でも、どうしても信じることができなかった。

信じることが怖かった。

私は捨てられた子犬のように震えながら、ただひたすら、遠ざかっていく爽君の足音を聞いていた。













































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