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本編
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「ぬるいんじゃない?」
教室の壁にもたれかかり、腕組みしながら彼女は言った。
「証拠があるんだから、学校に提出すれば一発であいつをクビにできるんでしょう」
視線の先には、彼の姿がある。仮面をかぶらず、偽らざる姿だ。
その目を見ていると、彼女は心の奥底が凍てつく。ぞっとする。
どうして誰も気づかないのだろう。彼の本質に。
『滅ぼす者』だということに。
「……君に指図される筋合いはないよ」
ごく丁寧な口調で彼は言った。春風のような微笑を浮かべて。
「爽君に禁止や強制は逆効果だよ。こちらがどんな手を使おうと、舞ちゃんに会いに来る。
……あの人には、自分の意志で舞ちゃんの前から去ってもらわないと」
彼――住吉紘二を見つめ、彼女は溜息をつく。
「ま、本当に目的が果たせるのなら、私もあの方もそれで構わないけどね」
「信じてもらおうとは思ってないよ」
紘二は両手を広げて、暗く笑う。
彼女は目を細めた。
「いい?私たちは摂理によって創られた存在。摂理から外れる行動をすれば、」
「分かってるよ。摂理とやらの話は、うんざりするほど聞いた」
紘二は遮って言った。
「ディエス・イレは起こらなければならない。障害となるものは全て排除する。君らと馴れ合うつもりはないけど、目的は同じだ。なら、お互いを妨害する必要はない」
「……そのとおりね。でも」
彼女は紘二を見つめた。
ふわふわとした、捉えどころのない存在。
それは見た目だけではなく、中身もだ。
心の底では何を考えているのか、彼女には全く分からなかった。
「あなたは舞が好きなんでしょう?それでもディエス・イレを優先できるの」
紘二は黙って、窓の外を見つめている。
その横顔を見つめていたら、ある考えが浮かび、その考えに彼女はぞっとした。
「まさか……それも嘘なの?」
紘二が舞に好意を見せ、舞が紘二に惚れ込めば、言いなりにすることができる。
どんな実力行使より、よほど効果的だ。
引っかかってはいたのだ。
ヘリポートで舞にキスする久松爽を引き離したとき、紘二はその前に証拠写真を撮っていた。
自分の好きな女性が襲われていて、それを冷静にカメラに収めることができるだろうか?
いくら証拠が必要とはいえ?
紘二は何も答えない。ただ静かな目で窓の外を眺めている。
その先にあるのは、空よりも高く、宇宙よりも遠い何かだった。
「……ロゴス解放」
その言葉に、彼女の肩がびくりと跳ねる。
「ディエス・イレが近づくほど、ロゴスは弱まる。彼女の行動に目を光らせるんだね」
「そんなこと、言われなくても分かってるわ」
「ならよかった」
にこっと笑うと、紘二は身軽に教室から出ていった。
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