ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

79

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ソロン王はしばらくして、柔らかな金髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。

「……悪い。八つ当たりだったな」

「いえ」

私は両手を体の前で組み合わせた。

高い天井、長い廊下、澄んだ空気。

アルカディア神殿には、神に仕える巫女と神官が百名以上存在する。

これほど巨大な神殿があるのも、祀られているアポロン神の加護によるものだ。

特に巫女の中で最も強い力を持つ者は、巫女姫みこひめと呼ばれ、霊媒としてアポロン神の言葉をその身に降ろすことができる。

これを『神託』と言った。

王はその神託を元にまつりごとを行う。

神託はいつも正しく、王は導きに従って国を治め、国は栄えてきた。

(でも、この人は違う)

私はソロン王をちらりと見た。

引き締まった体の線、凛々しい眉、薄い唇、そして意志の強さを表す瞳。

(この人は、自分の手で国を導こうとしている。神託に頼らずに)

巫女姫である私の言葉を聞き入れることもあれば、撥ねつけることもある。

今までの王では考えられないことだった。

ふわり、と風に乗って白い花弁が飛んでくる。

顔を上げると、開かれた中庭に生えた樹から、美しい花が散りこぼれていた。

「お前は、この国をどう思う」

「え?」

唐突な質問に、私は目をしばたたかせた。

ソロン王はぐいと一歩、こちらに踏み出してくる。

「理由はない。だが、確信がある。このままでは、この国は滅びると」

私は息を呑んだ。

「俺は父を殺し、兄を殺し、刃向かう者を全て殺して王位を継いだ。だから……つかの間の平和が怖ろしい」

「ソロン様」

私はソロン王に近づき、その手を取った。

「……もうお忘れください。あなたがお父上を殺したのは、お父上があなたの母君を手にかけたからでしょう」
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