ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

文字の大きさ
103 / 133
本編

102

しおりを挟む
「お前は……マイアはコンスタンに殺された。その直後にディエス・イレが起きた。
あいつは何も言わなかったが、俺には聞こえてきた。マイアがソロンと結ばれるくらいなら、マイアを殺してディエス・イレを起こそう――と」

かたかたと歯が鳴っている。爽君のものか、私のものか。

ありったけの空気をかき集めるようにして、震える息を肺から吐き出し、爽君は言った。

「あいつはお前が好きなんだ、今も昔もずっと」

だけど、と爽君は言い足した。

「お前と紘二が結ばれることは永遠にない。あいつが『鍵』で、お前が『封じる者』である限り」

「封じる者……」

私は胸に手を当てた。答えはもう分かっていた。

「唯一、ディエス・イレを止める方法がある。それはディエス・イレが発動する前に、『鍵』を封じることだ。
その能力を『セラ』という」

「それが私なんだね。爽君」

これ以上、爽君に言わせたくなくて、私は遮った。

胸が痛い。溢れてくる哀しみを堪えようと、唇を噛みしめる。

「『セラ』の能力を解放し、ディエス・イレを止めること。それが『封じる者』の役目。そうでしょう?」

「……ああ。『摂理』は『鍵』と同時に、対の存在である『封じる者』を造り出した。世界の均衡を保つために」

均衡がどういう意味か、正確には分からない。

けれど恐らく陰陽のように、どちらかの要素に傾くことを『摂理』は良しとしないのだろう。

だから創造主もディエス・イレというシステムと同時に、それと相反する要素を配置した。

私や爽君のように前世を知り、摂理に背いてディエス・イレを止めようとする、異端の存在も。

「だから、コンスタンスはマイアを殺したのね。『封じる者』を殺せば、ディエス・イレを止めることができる者
はいなくなるから」

「そうだ」

「爽君が紘ちゃんを階段から突き落としたのは……私が紘ちゃんに殺されないようにするため?」

「いや、違う。俺の目的のためだ。あいつが前世の記憶を思い出す前に死んでほしかった。そうすれば、ディエス・イレを止められると思った。
けど中途半端なことになって、結局、俺のせいで紘二は前世を思い出した。情けないな」

爽君は言って、片手で顔を覆った。

「本当、『摂理』ってのは上手くできてやがる。俺たちは結局、どこまでいっても殺し合うしかない。そういうふう
に生まれついたみたいだ」

苦い笑い声が聞こえてくる。

私は首を振った。何度も何度も。

(諦めない……諦めたくない)

摂理や創造主がどうあろうと、滅びから世界を、自分自身を救う道は残されているはずだ。

運命は既に決まっているなんて、全ては計算ずくだなんて、私には思えなかった。

非の打ちどころのないシステムに見えても、きっとどこかに歪みはある。

この世に完璧な運命なんてない。

だって――紘ちゃんも爽君も、お互いを殺そうとして、殺せなかったのだから。











































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

人質王女の恋

小ろく
恋愛
先の戦争で傷を負った王女ミシェルは顔に大きな痣が残ってしまい、ベールで隠し人目から隠れて過ごしていた。 数年後、隣国の裏切りで亡国の危機が訪れる。 それを救ったのは、今まで国交のなかった強大国ヒューブレイン。 両国の国交正常化まで、ミシェルを人質としてヒューブレインで預かることになる。 聡明で清楚なミシェルに、国王アスランは惹かれていく。ミシェルも誠実で美しいアスランに惹かれていくが、顔の痣がアスランへの想いを止める。 傷を持つ王女と一途な国王の恋の話。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...