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本編
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東京に住んでいるからか、東京タワーに行ったことはあまりない。
幼稚園か何かの遠足で、友達や先生と手をつないで歩いていったぐらいだ。
でも不思議なんだけど、白くて綺麗で新しいスカイツリーができてからも、何となく古びた東京タワーのほうに愛着があって。
だから、爽君が待ち合わせ場所にここを選んでくれたのが嬉しかった。
「おのぼりさんみたいだね」
「お前もな」
笑いながら、爽君は私の頭を手でわしゃわしゃと撫でた。
夜景と呼ぶにはまだ薄明りの残る、夕なずむ景色が眼下に広がっている。
「来てくれてありがとう」
「どうしたの、改まって」
爽君は相変わらずすらりとしていて、ブルーグレイのスーツに白いシャツ、紺色のネクタイがよく似合っている。
私は制服から薄桃色のニットワンピースに着がえて、ブーツを履いてきたけれど、目線の高さはかなり上だ。
「お前はいつも俺から逃げるだろ。手を伸ばして、掴んだと思ったらすり抜けていく。由記の家から出てったとき、もう会えなくなるかと思った」
「そんなつもりなかったよ。LINEしてたじゃん」
「ああ、そうだな」
爽君が微笑んだので、私は訝った。
(いつもなら言い返したり、私のことからかったりするのに)
人も車も米粒のように小さく、空は茜色から紺色にグラデーションが変化していく。
心地よいざわめきは、私たちの会話から余分な重さを吸い取ってくれる気がした。
「……友子のこと、話したよね」
「ああ」
「前にね、誰かが摂理の話をしているのを、学校で聞いたの。頭の中で直接会話してるみたいだった。今思うと……そのとき言ってた『天使』っていうのが、友子のことだったのかも」
天の御使い。摂理を守り、ディエス・イレを引き起こすべく生み出された者。
だから私が存在を見破ったとき、友子は消えてしまった。
爽君だけが彼女をおぼろげながら覚えていたのは、前世の記憶を保持しているからだろう。
「もしかしたら、友子は自分で消えることを選んだのかも。そんな気もするの。最後に、自分の役目を私に話してくれたから」
胸が痛い。最後の友子の表情を思い出すと、心が音を立てて軋む。
うつむいていると、隣に並ぶ爽君が自然と私の手を握った。
「そいつが本当に摂理の側に立つ者なら、紘二を助けてディエス・イレを引き起こすのが使命だ。だから舞が前世を思い出し、ロゴスで封じた『セラ』の力を解放するのを止めたかったんだろう」
「でも、最後まで私に危害を加えなかった。友子も……紘ちゃんも」
私は呟いた。
紘ちゃんも友子も優しい、大好きな人たちだ。
そして多分、二人も私を好きでいてくれた。
それが余計に辛かった。
幼稚園か何かの遠足で、友達や先生と手をつないで歩いていったぐらいだ。
でも不思議なんだけど、白くて綺麗で新しいスカイツリーができてからも、何となく古びた東京タワーのほうに愛着があって。
だから、爽君が待ち合わせ場所にここを選んでくれたのが嬉しかった。
「おのぼりさんみたいだね」
「お前もな」
笑いながら、爽君は私の頭を手でわしゃわしゃと撫でた。
夜景と呼ぶにはまだ薄明りの残る、夕なずむ景色が眼下に広がっている。
「来てくれてありがとう」
「どうしたの、改まって」
爽君は相変わらずすらりとしていて、ブルーグレイのスーツに白いシャツ、紺色のネクタイがよく似合っている。
私は制服から薄桃色のニットワンピースに着がえて、ブーツを履いてきたけれど、目線の高さはかなり上だ。
「お前はいつも俺から逃げるだろ。手を伸ばして、掴んだと思ったらすり抜けていく。由記の家から出てったとき、もう会えなくなるかと思った」
「そんなつもりなかったよ。LINEしてたじゃん」
「ああ、そうだな」
爽君が微笑んだので、私は訝った。
(いつもなら言い返したり、私のことからかったりするのに)
人も車も米粒のように小さく、空は茜色から紺色にグラデーションが変化していく。
心地よいざわめきは、私たちの会話から余分な重さを吸い取ってくれる気がした。
「……友子のこと、話したよね」
「ああ」
「前にね、誰かが摂理の話をしているのを、学校で聞いたの。頭の中で直接会話してるみたいだった。今思うと……そのとき言ってた『天使』っていうのが、友子のことだったのかも」
天の御使い。摂理を守り、ディエス・イレを引き起こすべく生み出された者。
だから私が存在を見破ったとき、友子は消えてしまった。
爽君だけが彼女をおぼろげながら覚えていたのは、前世の記憶を保持しているからだろう。
「もしかしたら、友子は自分で消えることを選んだのかも。そんな気もするの。最後に、自分の役目を私に話してくれたから」
胸が痛い。最後の友子の表情を思い出すと、心が音を立てて軋む。
うつむいていると、隣に並ぶ爽君が自然と私の手を握った。
「そいつが本当に摂理の側に立つ者なら、紘二を助けてディエス・イレを引き起こすのが使命だ。だから舞が前世を思い出し、ロゴスで封じた『セラ』の力を解放するのを止めたかったんだろう」
「でも、最後まで私に危害を加えなかった。友子も……紘ちゃんも」
私は呟いた。
紘ちゃんも友子も優しい、大好きな人たちだ。
そして多分、二人も私を好きでいてくれた。
それが余計に辛かった。
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