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【#29 ライバル関係について聞きました】
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【以前、お茶会で見初めて愛らしい方だと思っていたが、工業技術の育成にも力を入れていると伺い、より敬愛の念が強まった。堅苦しい見合いではなく、お友達として誼を結びたい。まずは、ざっくばらんにお茶でもいかがでしょうか】
お見合い申し込みの手紙は、こんな感じだった。
紙は最高級の上質紙で、薄緑色の便箋には綺麗な小花があしらわれており、レタリングはお洒落。
封筒にはウェンゼル家の紋章で封蝋がなされている。
普通のお嬢様なら、思わずうっとりして胸ときめかすような手紙だけど――。
……いやいやいやいや。人のこと拉致しておいて、よく言うよ。
つっこみどころが多すぎて、思考が追いつかない。開いた口がふさがらないとはこのことだ。
お茶会で見初めた? そんなわけがない。
工業技術の育成って、眼鏡のことだよね?
やんわりと『結婚して、眼鏡の技術ごとお前をゲットだぜ!』って言ってるよね?
敬愛のwww念wwwもいちいち草生えるし、まずはざっくばらんにお友達として……も建前であることが見え見えだ。行こうものなら、ぐいぐい話を進められるに決まってる。
「素敵な手紙だろう? 先方もお茶会でのことを覚えておられ、お前のことを見初めてくださったらしい。まあ、無理もないことだ。我が娘の美しさは輝くばかりだからな。一度でも目にすれば忘れられるはずもない。はっはっはっ」
どや顔で笑っているお父様に、私は首を振った。
「何をおっしゃるの、お父様。まさかこのお見合い、進めるおつもりじゃないでしょうね?」
「え? 進める気まんまんだけど?」
茶目っ気のある表情でお父様は言う。我が父ながら若々しくて格好いい。
これで眼鏡をかけてくれたら――って、そんなこと考えてる場合じゃない!
「だってウェンゼル公爵家と我がプリスタイン公爵家は、犬猿の仲なんでしょう? 何があったか知らないけど」
「おお、よく知ってるね。ティアメイは勉強家だなあ」
親ばか全開の笑顔でお父様は言う。
「確かに、プリスタイン公爵家とウェンゼル公爵家はライバル関係にある。リアンダー王国はもちろん国王様が治める国だが、各公爵領の領土は広大で、領主の権限は大きく、それぞれの領によってはっきりした特色がある。産業や教育や軍備など、力を入れるところもさまざまだ。だからこそ、特に隣り合う領同士は、常に意識し合い競い合う関係になる。うちとウェンゼル家だけでなく、他の公爵家も大体そんな感じだよ」
「戦争とかになったりもするの?」
「それこそ大昔の建国当初、王家の力がまだ強くなかったときは、そんなこともあったみたいだけどね。今は、同じ国の中で内紛は起こらないよ。そんなことを企てれば、一瞬で爵位も領地も没収されてしまうからね」
と、お父様が言ったので、私はほっとした。
「じゃあ、うちだけが特別ウェンゼル家と仲が悪いってわけじゃないのね?」
「いや~、それはどうかな。領政は別として、昔からうちとウェンゼル家は人間関係でいろいろあったからねえ」
「いろいろって何?」
「例えば、うちの父方の祖父――先々代の公爵だね――は、ウェンゼル公爵に好きな女性を取られたらしい。今ではその方は、先々代の公爵夫人であられる。あと大伯母さんは舞踏会でウェンゼル公爵家のご令嬢と出くわして、悪いことにドレスのデザインが丸かぶりしていたらしい。その上、ダンスを申し込まれた人数を競い合って負けたとかで、お怒りは相当なものだったそうだよ」
「そ、そんなしょうもないことで対立してたの……」
がっくりと肩を落とす私。どれもこれも逆恨みじゃないか。
まあオスカーの顔面偏差値から推測するに、ウェンゼル家はとびきりの美形ぞろいなのだろう。
私たちだって負けてはいけないけど、あの綺麗な金髪はなかなかお目にかかれないもんね。
「しょうもない、と言うけどね、ティアメイ。恋は人を狂わせるものだよ。どんなに冷静でいようとしても、感情の波にさらわれる。人の心の最も無防備な部分をさらし、時には傷つけられる。……お前にはまだ早かったかな?」
からかうような瞳で、なぜかお父様はアキトに目配せをする。
アキトは恐縮したように頭を下げ、一言も発さず気配を消している。
「それなら、なおさらお断わりしたほうがよいのではなくって? 因縁のある相手なんだし」
「因縁があるからこそ、ここいらでしっかり和解し、絆を結んでおくのもよいかなと思ってね」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
……って、納得してる場合じゃない!
お父様は気づいてないけど、オスカーは私じゃなくて眼鏡の技術を狙ってるんだもん。
結婚なんてしたら、眼鏡ごとプリスタインの産業を乗っ取られちゃうよ。
でも、そのことを説明するには、拉致の話をしなきゃいけないし……ああ、どうしよう!?
お見合い申し込みの手紙は、こんな感じだった。
紙は最高級の上質紙で、薄緑色の便箋には綺麗な小花があしらわれており、レタリングはお洒落。
封筒にはウェンゼル家の紋章で封蝋がなされている。
普通のお嬢様なら、思わずうっとりして胸ときめかすような手紙だけど――。
……いやいやいやいや。人のこと拉致しておいて、よく言うよ。
つっこみどころが多すぎて、思考が追いつかない。開いた口がふさがらないとはこのことだ。
お茶会で見初めた? そんなわけがない。
工業技術の育成って、眼鏡のことだよね?
やんわりと『結婚して、眼鏡の技術ごとお前をゲットだぜ!』って言ってるよね?
敬愛のwww念wwwもいちいち草生えるし、まずはざっくばらんにお友達として……も建前であることが見え見えだ。行こうものなら、ぐいぐい話を進められるに決まってる。
「素敵な手紙だろう? 先方もお茶会でのことを覚えておられ、お前のことを見初めてくださったらしい。まあ、無理もないことだ。我が娘の美しさは輝くばかりだからな。一度でも目にすれば忘れられるはずもない。はっはっはっ」
どや顔で笑っているお父様に、私は首を振った。
「何をおっしゃるの、お父様。まさかこのお見合い、進めるおつもりじゃないでしょうね?」
「え? 進める気まんまんだけど?」
茶目っ気のある表情でお父様は言う。我が父ながら若々しくて格好いい。
これで眼鏡をかけてくれたら――って、そんなこと考えてる場合じゃない!
「だってウェンゼル公爵家と我がプリスタイン公爵家は、犬猿の仲なんでしょう? 何があったか知らないけど」
「おお、よく知ってるね。ティアメイは勉強家だなあ」
親ばか全開の笑顔でお父様は言う。
「確かに、プリスタイン公爵家とウェンゼル公爵家はライバル関係にある。リアンダー王国はもちろん国王様が治める国だが、各公爵領の領土は広大で、領主の権限は大きく、それぞれの領によってはっきりした特色がある。産業や教育や軍備など、力を入れるところもさまざまだ。だからこそ、特に隣り合う領同士は、常に意識し合い競い合う関係になる。うちとウェンゼル家だけでなく、他の公爵家も大体そんな感じだよ」
「戦争とかになったりもするの?」
「それこそ大昔の建国当初、王家の力がまだ強くなかったときは、そんなこともあったみたいだけどね。今は、同じ国の中で内紛は起こらないよ。そんなことを企てれば、一瞬で爵位も領地も没収されてしまうからね」
と、お父様が言ったので、私はほっとした。
「じゃあ、うちだけが特別ウェンゼル家と仲が悪いってわけじゃないのね?」
「いや~、それはどうかな。領政は別として、昔からうちとウェンゼル家は人間関係でいろいろあったからねえ」
「いろいろって何?」
「例えば、うちの父方の祖父――先々代の公爵だね――は、ウェンゼル公爵に好きな女性を取られたらしい。今ではその方は、先々代の公爵夫人であられる。あと大伯母さんは舞踏会でウェンゼル公爵家のご令嬢と出くわして、悪いことにドレスのデザインが丸かぶりしていたらしい。その上、ダンスを申し込まれた人数を競い合って負けたとかで、お怒りは相当なものだったそうだよ」
「そ、そんなしょうもないことで対立してたの……」
がっくりと肩を落とす私。どれもこれも逆恨みじゃないか。
まあオスカーの顔面偏差値から推測するに、ウェンゼル家はとびきりの美形ぞろいなのだろう。
私たちだって負けてはいけないけど、あの綺麗な金髪はなかなかお目にかかれないもんね。
「しょうもない、と言うけどね、ティアメイ。恋は人を狂わせるものだよ。どんなに冷静でいようとしても、感情の波にさらわれる。人の心の最も無防備な部分をさらし、時には傷つけられる。……お前にはまだ早かったかな?」
からかうような瞳で、なぜかお父様はアキトに目配せをする。
アキトは恐縮したように頭を下げ、一言も発さず気配を消している。
「それなら、なおさらお断わりしたほうがよいのではなくって? 因縁のある相手なんだし」
「因縁があるからこそ、ここいらでしっかり和解し、絆を結んでおくのもよいかなと思ってね」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
……って、納得してる場合じゃない!
お父様は気づいてないけど、オスカーは私じゃなくて眼鏡の技術を狙ってるんだもん。
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