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しおりを挟む「やっぱりあの奴隷商が来るまでは大人しくしてた方がいいと思うよ」
「はい、私も同意見です」
この家から脱出するという目的が一致した後、ミオとリルディアは作戦会議をすることにした。
無策で飛び出してもすぐに捕まってしまうのは目に見えていたからだ。
「あいつらが溺れるくらい酒を飲んだ後、俺が適当に金をくすねてくるから、その後逃げようね」
「くすねる、ってどういう意味ですか?」
リルディアには聞き覚えのない言葉だった。
「盗むってことだよ」
にこり、とミオが笑う。
言っていることは悪いことのはずなのだが、あまりにも軽く言われるので混乱してしまう。
「え、な、何故ですか?」
逃げることと、彼らからお金を盗むことは何か関係があるのだろうか。
「君、逃げた後のこと考えてないでしょ」
「あ。み、ミオ、どうしましょうか」
言われてみれば、逃げることにばかり頭がいっていて、その後のことは何も考えていなかった。
当然だが生きる為にはお金がいるし、住むところにもあてなんて無かった。
「取り敢えずはお金があれば何とかなるからさ。
そこは俺に任せてよ。
盗むのは駄目とか言わないでね?どうせ君から奪った金なんだから」
有無を言わせない勢いだった。
確かに、元を辿ればリルディアの所持していた物を売ったお金なのだから、筋は通っているのかもしれない。
「そ、それじゃあよろしくお願いします」
「はいはい」
どこか居たたまれなくてしゅんとしていたリルディアの頭をミオが撫でる。
女性に気安く触れるなんて、と怒るべき場面なのに、ミオの手が離れることが惜しく感じてしまい、結局そのまま受け入れた。
「君って、変な癖毛がついてるよね。てっぺんに」
「え?」
ミオがリルディアの頭部の辺りをつつく。
それはリルディアが地味に気にしている、どう梳かしても直らない頑固な癖毛だった。
「何だか可愛いね?」
「………う」
ミオが嘘を言っている様子もないし、素直に褒め言葉として受け取ればいいのか、それとも気にしているのであまり触れないでくださいと突っぱねればいいのか、リルディアには分からなかった。
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「…ミオは、彼らに売られたと知ったとき、怖いと思いましたか?」
作戦実行までの間、リルディアとミオは灯りを消し、声を潜めながら話をしていた。
「いや、全然」
「本当に、ちっとも?」
「ちっとも。そもそも、いつかはそうなるって分かってたしさ。
それがあの時だっただけだよ」
そう話すミオは虚勢を張っているようには見えなかった。
でも、親に裏切られた上に奴隷にされそうになったのに、そんなことってあるだろうか。
「…私は怖かったです」
「僕も、君のことはわけが分からなくて気味が悪かったな。
怖かったって言ってもいいかも」
にこにこ笑いながら話す内容じゃないと思います。
「ミーオ?」
精一杯声に圧力をかけてみるが、ミオに効いた様子はない。
「怒らないでよ。
自分が奴隷にされそうってなった貴族様が、平民で魔法使いの俺の手を取って走り出したんだぜ。
意味が分からなくて当然だと思ってほしいな」
「二人で売られそうになっていたんだから、二人で逃げるのは当然でしょう」
何を当たり前のことを言っているのかと、リルディアはミオをジト目で見つめた。
「本当に君って馬鹿だなあ」
「…ふん、知りませんっ」
この一週間で、両方の手でも収まらないくらいに馬鹿と言われていると思うのは、きっとリルディアの思い違いじゃないだろう。
怒っていることを示すように、リルディアはミオがいる方とは逆の方向へと顔を向けた。
「あの時からずっと、俺には君のことが全部、理解出来なかったんだ。
だから今度は君と一緒にいた。話だって沢山したのに、むしろ分からないことが増えてくなんて君っておかしい」
「…私は、貴方と再会した時から、貴方のことを知りたいと思っていました。
私の方は、ミオのこと少しずつですけど分かってきた気がします」
ふふん、とリルディアは得意になる。
普段のミオはいつも余裕があって、リルディアの方が慌てていることが多かったので、彼の一歩先にいるようで嬉しかったのだ。
「ふうん?本当に分かってるのか怪しいところだけど、本当なら羨ましいよ。
俺は君のこと、分かる気がしないのにね」
「分かる気がしないのに、分かろうとしてくれてるんですよね?
私はミオのそういうところ、好きです」
リルディアの言葉にミオは驚いたように目を見開いて、暫く黙った後に小さく、そう、とだけ呟いた。
(さっきはミオとお喋りをしていたから気が紛れていたけど、何もないと急に不安になってくるな…)
あの夫婦がミオとリルディアの様子を伺いに来ることがあるかもしれないと思い、二人は大人しく布団にもぐった。
けれど一人でじっとしていると、途端に不安が湧き出して、気が気でなくなってしまう。
今夜を乗り切れるのか、恐ろしくて仕方がないのだ。
「っ?」
突然手に温もりが触れて声を出してしまいそうになった。
恐る恐る隣を見ると、ミオの手がリルディアの手に重なっていた。
恐がるリルディアの心を見透かしていたのだろうか。
(温かいな)
この手が冷たくなることなんて、想像もしたくない。
絶対にミオと二人でこの家から逃げ出してみせなくては。
リルディアは改めて決意を固くした。
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