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(…やっぱり、自力で着替えられるようにする以外の選択肢はないわ)
あの時ミオから教わって着れるようになった服は、恐らくもの凄く安価で単純な構造のものだ。
もう少し複雑な、例えばエマの着ているようなメイド服や、今リルディアが着ているドレスを一人で着てみせろ、と言われたとしてもリルディアにはお手上げだろう。
「ね、エマ。お願いです」
「………分かりました」
リルディアに折れる気がないことを悟ったのか、承諾の言葉を貰うことができた。
「ありがとうエマ!」
「リルディア様はこうと決めてしまわれたら動いてくれませんから」
「う、いつもごめんなさい」
頑固なところも、我儘を言って困らせていることも自覚していた。
(きっと、これからもっと困らせてしまうだろうし)
貴族の世界から追い出される可能性が高い以上、自分で出来ることは可能な限り増やしていきたい。
そうなると、素行のいい伯爵家令嬢として振る舞えないこともあるだろう。
実際、今自分で着替えられるようになりたいと駄々をこねていること事態、品行方正なレディとはとてもではないが言えないのだから。
(何か、私からもエマに返せることを探さなくては)
「いいえ、お気になさらず」
「エマ、教えてくれる気になってくれてありがとう。
何か、私に返せることがあったら言ってくださいね」
ふにゃりと笑みが崩れる。
小さな一歩ではあるが、自立の為の大切な一歩でもあるのだ。
「…何か返して頂けるのでしたら、リルディア様が立派な伯爵家令嬢として育ってくださることを望みます」
立派な伯爵家令嬢。
その言葉に体が竦んだ。
前回のリルディアは伯爵家令嬢としての立場を剥奪されている。
(貴族として、胸を張れるような行いをしてきたつもりでしたが、蓋を開けてみれば最悪の結果だったのだから)
「…エマ」
「はい」
「立派な伯爵家令嬢になれるかは分かりません。
けれど、リルディア・フォン・シャルナディークの名に恥じない自分でいるつもりです」
それでは駄目だろうか。
やはり足りないか。
けれど、ここで立派な伯爵家令嬢になります、と言えるだけの自信などリルディアにはなかった。
「それで十分ですよ。リルディア様」
優しい声音に俯いていた顔を上げれば、エマが微笑んでいた気がした。一瞬。
「エマ、今、笑ってくれた?」
「いいえ。私は使用人ですので」
いつもの無表情な顔に戻ってしまった。
余計なことを言わなければもう少し長い間柔らかな顔を見られただろうか。
「そう。うん、私、エマが表情を崩してくれるの好きみたい」
「…リルディア様」
幼子を咎めるような声を出さないでほしい。
いや、今のリルディアは正しく幼子ではあるのだが。
「なーんて、いや、冗談ではないですけど。
着替えの上手なやり方、どうか教えてください」
小さな溜め息が聞こえる。
「仰せのままに、お任せください」
彼女の、引き受けたら最善を尽くす有様が、リルディアは大好きなのである。
(これで着替えの問題は解決しましたね!)
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