上 下
8 / 17
第3章 自称雷帝にして鵺(ぬえ)の娘(名はまだない)

自称雷帝の訪問2

しおりを挟む
 そして最近はずっと呼ばれていない。
 あいつは相変わらず父上の下を訪ねておるのに。
 そして今回もまた。


 そして前回の来訪の後、聞き捨てならぬ噂を耳にした。

『国王と雷帝が恋人同士である』との。

 そんなことがあろうか、とは想う。
 確かにあいつはおのこを好むとの噂があったが。
 しかし、あくまで『人外の』との条件付きでなかったか。

 もしかして、父上は人外なのだろうか?
などという、ありえぬことまで、一時は疑う始末であった。
 なら、私はどうなる?
 魔道を使えるのは人のみで、人外は使えない。
 皆の知るところである。
 もし父上が人外なら、魔道が使える私は父上の子ではない、ということになる。
 さすがに、これは私の妄想であるとなった。
 

 そもそも父上は女好きであった。
 かあ様以外にも何人も側室がおった。
 それゆえ他に娘もおる。
 私に対しては、本当の娘はお前一人だなどと言うが。
 それが、かあ様がおらぬ私に対する優しさと思いやりのゆえ、
とはさすがに私も気付く。

 他国には、妃を持つものの、実は男好きという王もおるとは聞く。
 しかし、父上はそんな風には見えなかった。
 これだけ身近におれば、いくら何でも気付こう。
 あるいは、あいつは特別ということか。
 私には良く分からぬが、宮女たちによれば、あいつはすこぶるつきの美男ということである。

『ねえ。ねえ。
人外好きとか男好きとか、言われているけど、
もし誘われたら、どうする?
ねえ、どうする?』

 というのが、あいつが訪れた時の彼女たちのもっぱらの話題のようであった。
 父上もあいつの魅力にやられてしまったのか?


 もう一つある。
 父上とあいつのつながりといえば、かあ様である。
 もしかして母様との思い出をしのんで、なぐさめ合っておるうちに、そういう関係になってしまったのか?
 あんなことやこんなことをしておるのか?
 もしそうならば、母様への冒涜ぼうとくであろう。


 それに全てが私の勘違かんちがいとしても、父上とあいつは、そのなぐさめ合いに私を入れるべきではないか。
 無論父上とあいつと私で、あんなことやこんなことをしようなんてことではない。
 その思い出を私に語るべきではないか、と言いたいのである。
 といって、父上であれ、あいつであれ、直接問う訳には行かない。
 私の勘違いだったらどうなる。
 これほどの面目丸めんぼくまるつぶれはない。
 何と下品な妄想もうそうをする娘などと、父に想われたくないことは無論のこと。
 加えて、あいつが、たとえ笑い話としてでさえ、他の者に言いふらしでもしようものなら、私の評判は地に落ちよう。
 とにかく、まずは現場を押さえることである。
しおりを挟む

処理中です...